コラム

「韓国なんて要らない」なんて要らない?

2019年09月24日(火)15時20分

ただ、多少危険でも極論を捨てないで、出発点にしていきたい。差別やヘイトスピーチは議論の邪魔になるから、それらは除外するべき。でも問題なのは極論ではなく、感情論や暴論だ。極論は大事にしよう。冷静沈着に審査すれば正論にたどり着けるから。

では、「韓国なんて要らない」という議題を分野別で考えてみよう。極論とは言え、選択肢にはなるかもしれない。

▼安全保障......韓国との縁を切ったら、北朝鮮関連のインテリジェンス、仮想敵国との間の緩衝地帯、日米韓の円滑な連携などを捨てることになるが、日本はすぐに敵に侵略されたりしない。現状と同じ抑止力を単独で確保するなら防衛費を兆円単位で増やさないといけないかもしれないが、可能は可能だろう。

▼経済......900億ドルの貿易を犠牲にする選択肢もある。日本の輸出業者が500億ドル分の商品を買ってくれるお客さんを他で見つけるのも、輸入業者が400億ドル分の代替品を仕入れるのも苦難だろう。もちろん、一部の企業が破産したり、国民が失業したり、消費者の生活水準は多少下がったりするかもしれないが日本経済が崩壊するわけではないはずだ。

▼観光......750万人を超える訪日観光客に玄関を閉じることもあり得る。観光業界の減益は避けられず、韓国人が来なくなったことで7~8月だけで10億円の経済損失を被った長崎県対馬市は立ち直れない恐れもあるが、日本という国は生き残る。

▼在日韓国人......日本で生活している数十万人の韓国籍の人を強制送還することを考えてみよう。彼らが支えている企業、組織、コミュニティーはすぐに苦しむし、次世代の孫正義のような、日本の将来を背負う逸材を失う可能性もある。その上、人権侵害で国際法違反とされ、戦時中に日系人を収容所に入れたアメリカや、今も少数民族ロヒンギャを国外追放しているミャンマーのような悪名を世界に残す可能性もある。そんな国になることもできる。

▼芸能......韓国のエンターテインメントのコンテンツ販売や閲覧を禁止すれば、いまだに韓流ドラマにはまっている近所のおばちゃんは大泣きすると思うが、死にはしない。

こうして、「韓国なんて要らない」を1つずつ考えると分かる。縁を切っても、日本が直ちに存亡の機を迎えることはない!......でも、相当なダメージを受けるのは間違いない。コントロールできない相手がいて苛立たしいことはたくさんあるが、最悪の選択肢を考えると、日韓関係にある「忘れがちな価値」は見えてくるのではないか。壊れた関係を捨てるより、直したほうがよっぽど得策ではないだろうか。

そう気づくときは、極論から正論にたどり着く瞬間。その旅を始めるために「要らない」は要るかもしれない。
 
(ちなみに、週刊ポストの記事にあるとおり、日韓関係の決裂は、ほぼ全分野にわたって日本より韓国にとっての損失が大きいはず。だいたい個人でも国でも「相互依存」といいながら、依存度は不均衡なものである。でも、関係を解消すると依存度の低い方も無傷では終わらない。強い立場であっても別れることは慎重に考えるべき。「パックンなんて要らない」と考え出す妻に、僕はいつもそう論じている。)

20191001issue_cover200.jpg
※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。


ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

主要国・地域の25年成長率見通し上げ、AIブームで

ワールド

ロシア船籍タンカーにドローン攻撃、トルコ沖で 乗組

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ 経済

ワールド

香港、火災調査で独立委設置へ 死者156人・30人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story