コラム

デビュー40周年の大江千里、人生のラストスパートに向けて再び「青の時代」へ

2023年01月07日(土)15時24分

新年も無我夢中で、上を向いて歩こう! SENRI OE

<しまい込みがちだったポップを引っ張り出し、ノスタルジーに浸るのではなくジャズの新たなモチーフとして再発見するようになったと語る大江千里。そんな彼が掲げた新年の抱負とは?>

2022年の年頭の決意として、「職業は『生きること』。楽器は笑顔」と、このコラムに書いた。そのとおり、昨年は生きる基本である食を充実させおいしく作って食べ、結果笑顔が増える年となった。一方で、コロナ禍の辛抱や世界情勢の変化など、不安要素がてんこ盛りでもあった。いったい2023年はどんな年になるのだろうか?

22年夏、2年半ぶりに日本への帰国公演が実現した。これは僕にとってエポックな出来事だった。心では生のライブ自体が世の中からなくなるかもしれないと思っていたのだ。

そんななか行われた白馬、青山、鎌倉、そして母校の関西学院でのコンサート。長い間耐えてきた思いが報われ、コツコツためた音楽に一気に光が当たる瞬間だった。お客さんの顔を間近で見られて、昔よりもさらに絆が深くなったと実感した。

もう1つ、コロナ禍に突入する20年2月に計画されていて、キャンセルになったトリオツアーのリベンジ公演を22年12月、再び帰国して東京のブルーノートで開催できたことも大きな収穫になった。

ドラムのロスはマンハッタン・トランスファーの50周年世界ツアー中、ベースのマットも忙しい。僕らは、マンハッタンのリハーサルスタジオでそれぞれデュオでリハを行い、その音源をそれぞれが聴いて準備。

ブルーノート公演の直前に東京で3人によるゲネプロ、そのまま本番へ突入という離れ業を実行した。この折り重なる偶然を引き寄せるやり方で、必然の風を起こした。

ポップを懐かしむのではなく

それまでストイックにジャズに没頭していた僕は、「大江千里界」の伝統芸能ポップを引き出しにしまい込む傾向があった。しかし5月の配信ライブ「降っても晴れても」あたりからノスタルジーに浸るのではなく、新しいジャズのモチーフとしてその頃の曲を捉えるようになった。

今だからこそ、ポップ時代の曲をひもとくと新しい発見でいっぱいだ。実はその頃から僕はジャズのコード進行を多用しているし、言葉がメロディーをリードしたり、その時々に新しいエッジなスタイルを面白がって取り入れるところがあった。特に波に乗りまくっていた1988年7月のアルバム『1234』は、丸々ジャズでカバーしたいくらいの勢いがある。

23年は、1983年にポップでデビューしてから40周年。12月初めの日本公演を終えてブルックリンに戻った僕は、いま自分が時代の変わり目にいると感じる。

こういう時は流れにあらがわず次々に起こる潮流に肩の力を抜いて身を任せよう。人が幸せを感じる瞬間はどんどん変化するものだ。少し前に当たり前だったことが今や存在すらしない。

23年、僕は63歳になる。人生のラストスパートに向けての再びの「青の時代」だと思っている。老眼に腰痛、腱鞘炎に悩まされながら、それらを反転させチャンスに変え次のラストランを楽しもうともくろんでいる。

ジャズの世界には、昔から変わらぬ価値観がある。ただ、自分なりの手法でオリジナルジャズを追求することはやりがいがある。そこで、新年の決意!「無我夢中で混沌を突き抜ける」

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story