コラム

自民党総裁選に決定的に欠けているもの

2020年09月13日(日)16時35分

しかし、最大の問題は、そのような細かいことではなく、根本的な姿勢の問題だ。

それは、日本最大の問題である、危機、事件、イシューに、受身に対応するだけ、反応するだけで、建設的に、事前に大きなデザインを描いて、社会を設計する、という能動的で建設的な発想が存在しないことだ。その場しのぎの対応のやり方の論争に終始してしまう。これでは、リーダーになれない。

環境問題は、世界を日本がリードし、議論を進めていかなければならないのに、効率的で公害の少ない日本の最先端の石炭火力発電所は、世界で目の敵にされ、全廃することが求められている。世界中の途上国は、石炭火力が主力であり、建設コストだけでなく、ランニングコストから言っても、今後数十年は、彼らは石炭火力を使わざるを得ない。そして、彼らの古い石炭火力は公害を撒き散らす。これを現実的に抑制する唯一の方法は、日本の技術を世界中に供与し、最先端の石炭火力にすぐに切り替え、50年後を目指して、次の発電スタイルの大きなデザインを描くことだ。

これを発信するのが日本のリーダーの役割だが、日本政府は、世界で石炭火力が責められて初めておろおろし、対処方針を考え、受身で国内の石炭火力産業(発電とこの設備の生産者)を守ることだけに終始している。

世の中をリードする、世界を能動的に作る、そういう発想がゼロなのである。これでは、世界のリーダーには到底なれず、日本のリーダーとしても失格だ。

省庁を作ることは大好き

しかし、最大の問題は、日本のリーダーが受身にしか対応しないこと、対処療法、対処方針に終始することを、日本のメディアも、国民もまったく責めないことだ。それどころか、長期のことを言えば、非難され、目先の対処に集中することを求められる。カネを目先にばら撒くことを強要される。

今回で言えば、新型コロナ対策として、いわゆる特措法の改正をいつ行うか議論になったが、菅氏が、長期的な法律の考え方を見直すためには、落ち着いて議論すべきだ、というまっとうな主張は、石破氏にも、メディアにも、国民にも攻撃されている。

逆に、省庁を作ることは大好きで、防災省も問題だが、デジタル庁という菅氏の主張も滑稽すぎる。庁を作る暇があったら、デジタル化を1-2年で進め、そして終わらせてしまえばよい。デジタル化とはそういうもののはずだ。

絶望的だ。

誰が総裁になっても日本は変りようがない。このような議論を彼らがしているだけでなく、有識者が放置し、誘導し、それに国民はまったく疑問を持っていないからだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story