コラム

驚くべき政府、メディア、国民

2020年04月16日(木)11時10分

ニューヨークの病院前で防護服が足りない、と訴える医療従事者たち Mike Segar-REUTERS

<報道によれば、政府はマスクや防護服、医療機器の増産を企業に求めたという。今まで何をやっていたのか?>

驚いた。

今朝の日経新聞1面では、政府がマスクや防護服、医療機器を増産するよう企業に求めた、という記事が。

今日は4月16日。これは2月にやっていると思っていた。これこそ真っ先にやることであり、政府がやるべきことであり、できることだ。

なぜだ。

しかも、ダイヤモンドプリンセスという経験がありながら、なぜそれを生かせなかったのか。

首相、大臣のブレーンたちは何をしていたのか。

医療での遅れも目立つ。軽症患者の自宅、ホテルでの隔離、病院の分業、分離、これらは最重要であり、真っ先にやるべきだったが、遅れた。これは理解はできる。これまでの医療行政の立て付けから行って、制度に対する考え方を変える必要があったからだ。この柔軟性のなさは課題だが、そういう失敗、出遅れは理解できる。また、検査の方針、クラスター対策も、早めに二正面作戦に移るべきだったのが、最初のやり方に固執するのも、失敗だが、理解できる。また、日本医師会という団体が手ごわすぎて、いつも厚労省の政策が妨害されるのは大変残念だが、事実としてある。オンライン診療を2月いや3月になってもつぶしたのは医師会だし、4月に行うこととなってからも、例外中の例外と念を押す。緊急事態宣言を求めたが、その陳情書の中身は、病院に休業補償をしろという唖然とする内容。しかし、仕方がない。それが現実だ。これを打破してほしいが、打破できないのは理解できる。

抵抗勢力もいないのに

しかし、一番理解できないのは、産業政策、経済官庁による動員政策だ。

なぜやらない?やらなかった?

布マスクの生産を依頼し、400億円あまり予算が自由に使えるなら、医療崩壊を守るための病院用マスク、防護服の生産を真っ先に全額出してもやるべきだったし、私もうかつだったが、当然やっているものだと思っていた。

それをいまさら。しかも、在庫買い上げというが、設備投資も政府が出したらよい。なぜそれができない?

医療行政と違って、反対する団体はいない。抵抗勢力はいないのだ。やればいいだけなのに、なぜだ?

布マスクのアイデアは経済官庁の官僚のものだと報道されている。そのアイデアを出す前に出すアイデアがあるだろ。アイデアでもなんでもない、誰でもやると当然思っていることだ。

理解できない。

これをメディアも求めなかったし、国民も緊急事態宣言や休業補償、金を配れというばかり。

理解できない。

そして、メディアも知事と官邸のせめぎあいばかりに関心があり、国民も、そのパフォーマンス競争に勝った知事たちを賞賛しているようだ。あほなのか。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え

ワールド

ウクライナ外相「宥和でなく真の平和を」、ミュンヘン

ワールド

イスラエル、欧州歌謡祭「ユーロビジョン」参加決定 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story