コラム

緊急経済対策で医療崩壊が深刻化する

2020年04月07日(火)19時15分

さらに必要がないのが、V字回復の財政出動だ。縮小した消費を刺激するために、観光、飲食、イベントのために、金をばら撒く。

まったく必要ない。新型コロナの恐怖から人々が逃れれば、今まで我慢していた消費があふれ出てくる。延期されていたイベントは新しいスケジュールで行われる。それまでに倒産しないこと、失業者を出さないこと。これはとても重要で、必要だが、いったん乗り切ったら、自然に需要は出てくるので、消費刺激は一切要らない。

<参考記事>消費刺激は不要、それどころか社会に危機をもたらす

リーマンや大恐慌、大震災と比べて、ストックはまったく傷んでいない。やられているのは恐怖感による行動制約だけだ。それが取り払われれば、自然と日常に戻る。我慢していた分、日常よりも過熱した消費になる。自粛していた期間に失われた需要を100%は取り戻せないだろうが、しかし、日常に戻るのだから、通常の需要よりも加熱していて、さらに消費を刺激するのは効率が悪く、過熱で無駄だ。

その分は将来の医療に回すべきだ。

将来の感染症に備えを

日本政府は年金、医療をこれまで削減してきた。これからもするだろう。しかし、この感染症は、今回の新型コロナで終わらない。あらゆる感染症、ウイルスがさまざまな形で人類を社会を苦しめるだろう。そのときのために、金が必要だ。

将来の我々の子孫というまでもない、今の若い人々いや今中年の人々ですら、その危機に直面するだろう。増税するしかない、しかし、景気対策をやりすぎて、そのころは弾切れで、景気対策すらできないだろう。増税もできない。医療を制限するしかない。まさにそのときこそ、医療は崩壊するのである。

これほど将来に禍根を残す経済対策は類を見ない。

そして、その医療崩壊、財政破綻、あるいは次の新型ウイルスに資金不足で対応できない時、人々は、安倍政権を歴史的に批判するだろう。

しかし、それは安倍政権に責任はあるが、原因ではない。2020年に日本社会に生きていた我々が原因なのだ。我々が、世間が、社会が求めたから、安倍政権はこれを実行したのだ。それが日本社会の力だから仕方がない。

歴史は政治が作るのではなく、社会のすべての人々がつくっているのだ。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

20200414issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月14日号(4月7日発売)は「ルポ五輪延期」特集。IOC、日本政府、東京都の「権謀術数と打算」を追う。PLUS 陸上サニブラウンの本音/デーブ・スペクター五輪斬り/「五輪特需景気」消滅?

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story