コラム

なぜ「台湾のなかの日本」が映画になるのか

2017年07月21日(金)16時43分

石垣島に暮らす台湾人3世代を取り上げた『海の彼方』

(『海の彼方』予告編)


一方、『海の彼方』で扱われるのは、沖縄の八重山諸島の石垣島に暮らす台湾人たちの物語だ。八重山の台湾人については沖縄出身の記者・松田良孝の『八重山の台湾人』(南山舎)という好著があるが、台湾において八重山の台湾人を取り上げた映像作品は初めてのことだ。台湾の若手監督の黄氏は石垣島に暮らす玉木一家の3代にわたる生活史をメーンに取り上げている。

日本統治時代、台湾から農業移民が生活の糧を求めて八重山諸島に渡った。当時の台湾も沖縄も同じ「日本」であり、国境はなく、壁は低かった。彼らは差別や劣悪な農業の環境のなかでも歯を食いしばって家族の血をつないでいく。

酒井監督とは対照的に、黄監督にとっては「八重山の台湾人」3部作の1作目となるという。目指すのは、日本と台湾の境界であり、日本時代には台湾にとって最も近い「本土」だった八重山に生きる台湾人の人生を探し出すことだ。次作では西表島の台湾人鉱夫を取り上げようとしている。

黄監督は「すでに3代目になると、彼らも台湾との繫がりを忘れかけており、言葉も戦後台湾に入ってきた北京語は使えず、片言の台湾語と日本語しか話せない。台湾でも、沖縄に台湾をルーツにする人々が暮らしていることはほとんど知られていなかった。映画を通して、こうした隠された歴史を知ることで、日台の文化交流がさらに深まることを期待している」と話している。

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『海の彼方』より ©2016 Moolin Films, Ltd.

お互いの社会になお息づいている「内なる他者」

このような「台湾のなかの日本」と「日本のなかの台湾」というテーマは、近年の日台の映像文化でホットなトレンドになっている。

魏徳聖監督の『海角七号――君想う、国境の南』『KANO 1931海の向こうの甲子園』なども含めて、特に台湾では「日本」が映画における1つのテーマとなった。台湾で大ヒットし、今年日本でも公開されたドキュメンタリー『湾生回家』は、台湾で生まれ育った日本人である「湾生」たちが1945年の敗戦を境に日本に戻ることになり、戦後の日本社会で台湾への思いを抱えて生きていく切なさを描き出した。

一方、日本でもドキュメンタリー監督である林雅行氏が湾生を取り上げた新作『心の故郷〜ある湾生の歩んできた道〜』が年内にも公開される予定になっている。日台混血の作家、一青妙さんによる家族のエッセイを映画化した『ママ、ごはんまだ?』も日本と台湾で今年公開された。

戦後70年を経て、日本や台湾の映画人たちが、それぞれのなかにある「日本」や「台湾」を掘り起こそうとしているのは興味深い現象だ。

その理由の1つは、「失われた自らの断片」を確かめたい、という心理が、戦後70年を経て、我々の間に強まっていることだろう。

【参考記事】台湾生まれの日本人「湾生」を知っていますか

プロフィール

野嶋 剛

ジャーナリスト
1968年、福岡県生まれ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学・台湾師範大学に留学。1992年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学の後、2001年からシンガポール支局長。その間、アフガン・イラク戦争の従軍取材を経験する。政治部、台北支局長(2007-2010)、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年4月からフリーに。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に執筆活動を行っており、著書の多くが中国、台湾でも翻訳出版されている。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)『銀輪の巨人』(東洋経済新報社)『チャイニーズ・ライフ』(訳書・上下巻、明石書店)『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)『故宮物語』(勉誠出版、2016年5月)『台湾とは何か』(ちくま新書、2016年5月)。

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