コラム

消費税増税による消費低迷が長引く理由

2018年04月03日(火)14時50分

物価よりも低下し続けてきた名目賃金

このように、1990年代後半以降の日本経済では、労働生産性はそれなりに伸びているにもかかわらず労働者の実質賃金は低下し続けるという、ある意味できわめて定型外な状況が、長期にわたって続いてきた。そして、この定型外な状況は、まさしく日本経済に長期デフレーションすなわち物価の継続的下落が生じていた時期に生じていた。

ところで、デフレとは要するに財やサービスの価格が安くなるということである。したがって、もし労働者の名目賃金すなわち額面上の賃金が不変なら、その賃金総額によって購入できる財貨サービスの量は増えるはずである。すなわち、労働者の実質賃金はむしろ上昇するはずである。しかし現実には、この長期デフレーションの間に、日本の労働者の実質賃金は低下し続けてきた。それは、労働者の名目賃金が物価以上に下落していたからである。

以下は、拙コラム「雇用が回復しても賃金が上がらない理由」(2017年8月17日付)に掲載した、1990年を100 とした日本の名目賃金指数、消費者物価指数、実質賃金指数(=名目賃金指数/消費者物価指数)の推移を示す図1の再掲である。この図から、日本ではとりわけ消費税増税が行われた1997年以降、物価以上に名目賃金が低下し、結果として実質賃金が低下し続けてきたことがわかる。

日本の名目賃金指数、消費者物価指数、および実質賃金指数(1990〜2016年)nogchi1.jpg

(データ出所)厚生労働省、総務省統計局の各ホームページ

この2017年8月17日付の拙コラムで論じたように、1997年4月の消費税増税を発端とした経済危機以降、日本の企業は、賃金の切り下げのために、従来の慣例であった年功に応じた定期昇給を放棄し、成果主義などの導入を模索するようになった。さらに、賃金コスト全体の圧縮のために、平均賃金の高い正規雇用から、それが低い非正規雇用への置き換えを積極化させた。また、春闘と呼ばれる労使交渉を通じた年々の賃上げ、いわゆる「ベア」も、それ以降はしばしば見送られるようになっていった。

つまり、労働者の平均的な賃金はこの時期、長期デフレ不況による雇用環境悪化を背景に、さまざまな形で切り下げられていった。1997年以降の名目賃金および実質賃金の低下とは、その端的な現れと考えることができる。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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