最新記事
シリーズ日本再発見

脱炭素化までの道に電力危機が...「ZEB」がエネルギー問題解決の一手に?

2022年08月02日(火)14時10分
西田嘉孝
熱波

Tomwang112-iStock.

<電力需給がひっ迫しているが、脱炭素の歩みを止めるわけにはいかない。そこで今、世界の先進国や日本で推進されているのが、省エネと再生可能エネルギーの活用を組み合わせた「ZEB(ゼブ)」だ>

今年、日常生活を突如として襲った電力危機に驚いた人は多いだろう。東日本大震災後の2012年に運用が開始された「電力需給ひっ迫警報」が、10年の時を経て、3月に初めて東京電力管内で発令された。

6月に入ると、電力供給の余力を示す広域予備率が3%を下回る場合に出される「警報」に加え、広域予備率が5%以下となった場合の「注意報」を資源エネルギー庁が新設。東京電力管内では、6月だけで8回もの「電力需給ひっ迫注意報」が発令された。

コロナ禍からの経済回復による各国の需要増にロシアのウクライナ侵攻が重なり、世界のエネルギー事情は不確実性を増している。日本も決して例外ではない。原発の再稼働が遅れ、火力発電所も休廃止が続くなか、石油や天然ガスの輸入価格が高騰している。

そんな中でも、脱炭素社会への移行は時代の流れだ。脱炭素の実現と、電力需給の安定化。それらを同時に達成するためには、省エネと再生可能エネルギーの活用がますます重要になるだろう。

webBZ20220802okinawa-2.jpg

show999-iStock.

特にエネルギー消費量の大きい業務部門(事務所ビルや商業施設などの建物)における脱炭素化は、日本のみならず世界の国々が共有する課題だ。そこで今、世界各国で推進され、日本も普及を目指すのがNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)、通称「ZEB(ゼブ)」である。

環境省によると、ZEBとは「快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物」のこと。人が活動する建物内でのエネルギー消費量をゼロにすることはできないが、省エネによって使うエネルギーを減らし、創エネによってエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることはできる。

グローバル市場調査会社のIMARCによると、世界のZEB市場は2015年から2020年にかけて大きく成長し、2021年から2026年にかけては年平均成長率約27%で進展していくと予測されている。また、矢野経済研究所の市場予測でも、日本におけるZEB市場は2030年には7000億円規模にまで成長する見込みだ。

日本での普及が目指されるZEBシリーズとは何か

ZEBの詳細な定義は各国で異なるが、日本においては4種類に分けられ、ZEBシリーズと総称される。

省エネ+創エネでエネルギー消費量が正味ゼロ以下となる「ZEB」、省エネ+創エネで25%以下までの削減を実現した「Nealy ZEB(ニアリーゼブ)」、そして省エネのみで50%以下までの削減を達成した「ZEB Ready(ゼブレディ)」がある。

この3種類に加え、延床面積1万平方メートル以上の施設に限っては、ホテルや病院では30%以上、事務所や学校、工場では40%以上の省エネを達成すると「ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)」として認証。施設の規模や省エネ・創エネの達成度合いなどから4段階で定義されるわけだ。

webBZ20220802okinawa-3.png

「ZEBシリーズ」と呼ばれる認証には、上記の3種類に加え、延床面積1万平方メートル以上の施設向けの「ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)」がある Courtesy of Panasonic

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

25・26年度の成長率見通し下方修正、通商政策の不

ビジネス

午前のドルは143円半ばに上昇、日銀が金融政策の現

ワールド

米地裁、法廷侮辱罪でアップルの捜査要請 決済巡る命

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中