最新記事
シリーズ日本再発見

警察幹部がなぜ鬼平を愛読?──から始まった東京での「江戸」探し

2017年12月27日(水)15時52分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Hiro_photo_H-iStock.

<『鬼平犯科帳』は長谷川平蔵という実在の、いわば「警視庁・捜査1課トップ」をモデルとした小説。小説の世界と、史実の江戸と、現代の東京。古地図と想像力を携えて歩いた元新聞記者が見つけたものとは?>

2020東京オリンピック・パラリンピックの開催まで1000日を切り、東京は変化のスピードを増している。あちこちでビルの建て替えが進み、渋谷駅周辺の大規模再開発はさらにピッチを上げて、延期になっていた築地市場の豊洲移転も2018年10月で合意された。今後ますます街の様子は変わっていくことだろう。

だが一方で、ずっと変わらない風景もある。1964年の東京五輪以前どころか、250年前の江戸の庶民の暮らしぶりが、今もあちこちで感じられるのが東京という街だ。

毎日新聞(東京版)の連載をまとめた『古地図片手に記者が行く 「鬼平犯科帳」 から見える東京21世紀』(小松健一、CCCメディアハウス)は、そんな東京の一面を改めて思い起こさせてくれる。

新聞社には、入社間もない新聞記者が担当することの多い「サツ回り」という仕事がある。朝・夕と警察署を回って、事件や事故の有無を確認し、何かあれば現場へ駆けつけるのが仕事だ。著者の小松氏は、毎日新聞記者としてそのサツ回りをしていた頃に、『鬼平犯科帳』を愛読する警察幹部が少なからずいることを知ったという。

『鬼平犯科帳』は池波正太郎の代表作の1つで、長谷川平蔵という実在の人物がモデルになっている。1787年に江戸の「火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)」、現在で言う警視庁・捜査1課のトップになった人物だ。

時代小説の主人公に過ぎないと思っていた「鬼平」が、現在の警察官や警察組織にとっても何らかの指針なり教訓なりを与えている――そのことに驚き、興味を駆られた著者は、古地図を片手に、鬼平が活躍した江戸の風景を求めて街に出た。

鬼平と平蔵

「火付盗賊改方」とは文字どおり、放火や窃盗・強盗といった凶悪事件を担当する。江戸幕府はいわば軍事政権なので、火付盗賊改方も、治安維持部隊である「先手組」から派遣されていたという。長谷川平蔵は、そのトップである長官を8年にわたって務めた。これは歴代最長記録だそうだ。

「鬼平」という名から、さぞかし町民に恐れられたのだろうと思いきや、史実の平蔵は、池波が小説に描いたとおりの人物だったらしい。平蔵が活躍した当時の江戸の出来事を書き記した『よしの冊子』という史料にある記述を、著者が紹介している。


 捕らえた盗賊の身なりが粗末だったので、平蔵は着物を買い与えてから連行したこと。市中見回りの途中、派手な夫婦喧嘩に遭遇した平蔵が仲直りさせたこと、どうせ捕まるのなら町奉行所よりも慈悲深い平蔵のお縄にかかりたいと盗賊が自首したこと、江戸の庶民の間では「いままでにいなかった素晴らしい火盗改方の長官だ」と評判で慈悲深い方だと喜ばれていたこと......。(本書14~15ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中