最新記事
シリーズ日本再発見

職人技をいかに継承するか? 海外でも人気「角缶」復活の物語

2017年08月14日(月)16時25分
廣川淳哉

2つの缶は、もともと茶筒と海苔入れだった

この人気商品の誕生には、裏話がある。冒頭で形について触れたが、丸缶はもともと茶筒で、角缶はもともと海苔を入れるための缶なのだ。

紙などが巻かれ、茶や海苔のパッケージとして使わる缶に価値を見出した宇南山さんは、2009年、この缶で新たな商品を作ろうと考えた。同じ台東区にある缶を扱う問屋に「紙などを巻かない状態の缶を、そのまま商品にしたい」と相談したところ、一度は断られた。

これらの缶は、本来は人目に触れない存在だ。そのため、下町の職人が作ったままの缶には汚れや傷が付いており、商品にはならないというのが職人側の言い分だった。

そこで、仕入れた缶をSyuRoで磨き上げ、検品も行うという条件を課すことで、商品化が実現した。商品化にあたってこだわったのが大きさだ。丸缶、角缶、それぞれにサイズのバリエーションがあるが、積み重ねたときや並べたとき、美しく見えるという観点から大きさを決めた。機能ではなく、感覚でサイズを決めたことが、缶にさまざまな用途をもたらした。

商品化に向け、ブリキならより錆びにくい素材を用いるなど、できる限り商品としての質を高める工夫も施した。同年の見本市に出品したところ反響が大きく、翌年から販売数を伸ばした。その後、台東区の助成金を活用し英語を記したカタログを作成したことが、海外販路の開拓につながっている。

そんな角缶が今、生産休止に陥っている。手がける職人が、2016年9月に体調を崩したのだ。元の職人や工場で作れなければ、ほかで作ればいいとも思えるが、そう単純な話ではないらしい。というのも、角缶を作っていた職人は缶問屋から「腕利きの職人」として紹介された人物だった。

SyuRoの角缶は、金属板を折り込むことで箱を形作るという独自の手法で作られている。職人技で仕上げられた特別な品であることは、角缶の四隅の折り込みに見て取れる。

japan170814-5.jpg

四隅を折り込むことで、箱を形作っているのがSyuRoの角缶の特徴。こうした折り込みや、角に丸みを帯びさせるのが職人技だ Photo:廣川淳哉

宇南山さんは、職人技により作られた角缶の魅力について「角缶は、中村さんという職人さんしか作れなくて、機械も使うけど、ほぼ手作業。金属板を折り込んで作ることと、仕上げに四隅を叩いて角に丸みを出しているのが特徴です」と語る。

「絶妙な締まり具合も、職人技ならでは。手に馴染む使いやすさや高い精度に、作り手の思いが表れている気がするんです」。小さな箱に確かに宿る日本の職人技と、角缶の海外での高い評価は、けっして無関係ではないはずだ。

【参考記事】いまなぜ「国産」? オーダースーツが人気のメンズファッション

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ氏の「コメ発言」、政府は参院選控

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止 軍批判巡る失職請求審理

ビジネス

中国のAI半導体新興2社、IPOで計17億ドル調達
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中