コラム

日米関税協議の隠れテーマ「対中取引の制限」──安易に譲歩すれば日本が喰い物にされかねない理由

2025年04月28日(月)20時20分

もちろん日本がアメリカと正面から対決するのは難しい。それは長年リスク分散なしにアメリカ一択を続けてきたツケともいえる。

とはいえ、ここでしくじれば日本の立場はさらに厳しくなる。「聞けるものは聞く」のも必要だろうが、対中取引で安易に妥協するべきではないだろう。


これ以上減らすのは危険水域

第2に、日本はすでに対中取引を大幅に減らしている。

第一次トランプ政権がいわゆるデカップリングを打ち出した直後の2020年と、2024年の対中貿易額を比べてみよう。この間、日本の対中貿易額は輸出減によって120億ドル以上減少した。

ところが、同じ時期のアメリカの対中貿易額は252億ドル以上増加した。アメリカ以外の主な先進国と比べても日本の減少幅は際立っている。

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もちろんそれは地政学リスクなどを考慮した各社の判断によるところが大きい。しかし、対中包囲網やデリスキングを勇ましく叫ぶアメリカ(トランプもバイデンもこの点で大きな差はない)や国内の反中・嫌中世論に忖度した日本政府の旗振りの影響も無視できない。

それと並行して、日本政府が望まない輸出規制も行われてきた。

例えばトランプ政権発足直後の1月末、日本は先端半導体や量子コンピューターなどの新たな対中輸出規制に踏み切ったが、これはアメリカの圧力によるものだった。

経済産業省は「これまでの輸出規制で日本企業に大きな損失が発生している」と渋ったが、訪日した米議員団は「大した損失ではない」と一蹴した。

つまり日本は望むと望まざるとに関わらず、他の先進国以上に対中取引を減らしてきた。これ以上の大幅な制限は日本を危険水域に近づける。

日本企業3000社以上を対象にしたJETRO(日本貿易振興機構)のアンケート調査(2025年2月)によると、「最も重視する輸出先」に中国をあげた企業は前年比4ポイント減の14.8%だったが、「最も重視する原材料・部品調達先」に中国をあげた企業は製造業、非製造業ともに48%を超えた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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