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日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

2025年05月01日(木)18時54分

 日銀は1日、政策金利である無担保コール翌日物を0.50%程度とする誘導目標を据え置いた。写真は日銀本店、2024年3月撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[1日 ロイター] - 日銀は1日、政策金利である無担保コール翌日物を0.50%程度とする誘導目標を据え置いた。政策金利の現状維持は全員一致で決定した。

市場関係者に見方を聞いた。

◎不確実性を強調、関税交渉好転なら年内利上げも

<明治安田総合研究所 エコノミスト 前田和孝氏>

展望レポートは利上げ継続の意志が強く出ていた印象だが、植田和男総裁の会見では不確実性が強調された。今後の利上げの余地は残しつつも、各国の通商政策の今後の展開や影響が分からないため、確定的なことは言えないということだろう。

食品価格がなかなか下がってこない中、利上げ路線を残すのは自然だと思う。一方、植田総裁なりに不確実性についての説明を試みており、コミュニケーションという観点では問題なかった。

次の利上げのタイミングは関税交渉次第だ。良い方向に進展するなら9月あたりにできるかもしれないが、年内は見送りの可能性も高まっている。

◎タカ・ハトへの偏り避け、利上げ継続も示唆

<三井住友トラスト・アセットマネジメント シニアストラテジスト 稲留克俊氏>

先に公表された展望リポートについては「総じてハト派的」との受け止めが広がったが、植田総裁の会見は目立ってタカ派、ハト派ということもなく、うまく乗り切った印象だ。

成長率と物価の見通しを引き下げつつも、利上げを続けるとのメッセージをきちんと出しており、よく考えられていた。具体的には、基調的な物価上昇率2%の達成に向けては、単調に上昇するとの姿でなく、いったん足踏みした後に再び上昇するとの見通しを示し、ロジックとしても矛盾がないよう工夫されていた。

また米関税を巡る不確実性については90日の一時停止期間である程度低下すると述べ、7月利上げの可能性も残したと感じた。

総じて見れば新たな売買手掛かりとなる情報は乏しく、夜間取引の日本国債先物も落ち着いた値動きにとどまっている。

きょうは日中取引で若干過剰反応的に買われた面があったので、今晩の海外金利動向や日米交渉といった材料を全く考慮しないで言えばだが、明日の取引では多少の買い戻しが入ってもおかしくないだろう。

◎ハト派姿勢やむなし、経済悪化なら日本株抑制

<三菱UFJアセットマネジメント エグゼクティブ・ファンド・マネージャー 石金淳氏>

米国の関税政策が各国の通商政策に不確実性をもたらし、利上げを無理にやりにくいというのが日銀の本音だろう。植田和男総裁は会見で「基調的な物価が伸び悩んでいる」と発言。利上げを急ぐ理由はなく、総裁がそれを認め、マーケットにハト派的と捉えられた。関税の影響により米景気が減速する中で、日本の景気が良くなるわけはないので、仕方がないだろう。

為替は年初から円高方向に進み、いったん揺り戻しの時期に入っていたタイミングで植田総裁の発言が出て、やや過剰に円安方向に反応した面もあるだろう。日本株にとっては、次の利上げが遠のいたことで昨年夏のような急落は避けられそうだが、実体経済がさらに悪化すれば株価の上値が抑えられそうだ。

◎目先の利上げ観測は剥落、不確実性晴れれば年内実施も

<あおぞら銀行 チーフマーケットストラテジスト 諸我晃氏>

市場はタカ派的な発言を予想していた部分があったが、会見ではハト派的な展望リポートの内容を素直に説明した。基調的な物価目標の達成時期の後ずれを確認したため、目先の利上げ観測は剥落し、ドル/円の下支え材料となった。

米国の政策に伴う不確実性でいったん利上げ先送りとなってはいるが、その不確実性が晴れれば状況次第で年内のいずれかのタイミングでの1回の利上げはあり得るとみており、ドルについて年末に140円という見方は変えていない。植田和男総裁が12月の会見でハト派的な発言をした後に1月に利上げを実施した経緯もある。

日銀による目先の利上げ観測は剥落したものの、ドル/円に関しては引き続き上値は重い。米国の景気悪化懸念とともに、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測もある。日銀がハト派化しても、145円より上は上値が重いとみている。

◎目標達成時期を実質先送り、想定以上にハト派

<野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏>

米トランプ関税問題を受けた今回の利上げ見送り自体は想定内だが、展望リポートの物価見通しは想定以上にハト派。2%物価目標の達成時期について従来通り見通し期間後半としているが、今回から見通し最終年度が2027年度に伸びたため実質先送りだ。

米トランプ関税による円高・原油安進行だけでは説明しきれない物価の下押しを日銀は想定しているようだ。おそらく日本企業の大多数を占める小企業の賃上げにトランプ関税が相当水を差すことで基調的な物価上昇率が下押しされる絵を描いているのだろう。

日銀としては足元の実質金利がマイナスである状態に変化はなく金利正常化を目指す姿勢に変わりはないと思うが、次の利上げ時期については相当慎重になるだろう。

◎車関税25%シナリオの可能性、利上げ当面見送りへ

<SBI証券 チーフ債券ストラテジスト 道家映二氏>  

想定以上にハト派な展望リポートの見通しだ。日銀は従来から米トランプ関税で自動車関税が10%なら日本経済は吸収可能だが、25%に維持されるなら景気が腰折れするリスクを懸念していた。今回の見通しは25%シナリオに見える。これまで最速9月の利上げを想定していたが、当面利上げは難しそうだ。

もっとも現時点で景気悪化による金融緩和強化を検討している声は日銀内で非常に少数だと思う。 

◎利上げの姿勢は維持、年内1回はあり得る

<東短リサーチ チーフエコノミスト 加藤出氏>

利上げ方向の姿勢は維持した。不確実性が大きいため、どのタイミングでアクションを取るかは状況次第でフリーハンドを残しておくということだろう。

国内の経済情勢からすると利上げを急ぐ必要はないが、遅くとも年内に1回は引き上げるのではないか。まったく利上げをしないと、為替が円安・ドル高方向に進む恐れがある。楽観的なシナリオなら7月の参院選後の利上げも排除しない。日米関税交渉次第だ。

日本の実質の政策金利は低い。2026年以降、少なくとも1%まで利上げをするのではないだろうか。

ロイター
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