コラム

パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由

2024年07月30日(火)12時30分
パリ五輪開会式に参加したウクライナ選手団

パリ五輪開会式に参加したウクライナ選手団(7月26日) Pool via REUTERS/Clodagh Kilcoyne

<世界的イベントの裏でほとんど注目されなかったが、ウクライナ外相ドミトロ・クレバの中国訪問は国際情勢にとってかなり大きな意味をもつ>


・ウクライナ外相がロシアによる侵攻後、初めて中国を公式に訪問して戦争終結について協議した。

・中国はロシアと「無制限の協力」を打ち出す一方、ウクライナ最大の貿易相手国でもある。

・この時期にウクライナが中国に急速に接近する最大の要因は、欧米がウクライナ支援を今後ますます減らす兆候が昨月から鮮明になってきたことがある。

人目をひくイベントの最中でも、国際情勢は常に動き続けている。

ウクライナ外相 異例の訪中

米大統領選挙にカマラ・ハリスが正式に立候補したのと同じ7月23日、ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣が中国を訪問した。4日間の中国滞在を終え、ウクライナに帰国したのはパリ五輪が開幕した26日だった。

世界的に注目されるイベントの狭間で、クレバ訪中はほとんど注目されなかったものの、かなり大きな意味をもつ。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ外務大臣の中国訪問はこれが初めてだからだ。

中国とロシアは昨年"無制限の協力"に合意した。これを警戒するアメリカは「中国がロシアに軍事転用可能な民生品などを供給している」と主張している。

中国はこれを否定しているが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年6月、スイスで開催された支援国会合で「中国がロシアを支援している」「支援国会合に出席しないよう多くの国に圧力をかけている」と名指しで批判した。

それから約1ヵ月後に中国で王毅外相と会談したクレバ外相は「ウクライナの平和は中国にとっての戦略的利益であり、大国としての中国の役割は平和にとって重要と確信している」と述べた。

欧米の"フェードアウト"への警戒

今なぜウクライナ政府は中国へのアプローチを強めているのか。

その最大の要因は、6月から7月にかけて、欧米のウクライナ支援が今後ますます減少する見込みが大きくなったことにあるとみてよい。

ウクライナ向け支援額

このうちアメリカは、国別でいえば最大の支援国であるものの、2023年後半から支援の遅れが目立ってきた。ウクライナ支援に消極的な共和党が過半数を握る議会下院が、ジョー・バイデン大統領にブレーキをかけてきたのだ。

ウクライナ側の懸念をさらに強めさせた転機は、6月末のバイデンとドナルド・トランプの討論会だろう。この討論会でバイデンが精彩を欠いたことが、その後の"撤退"を加速させた。

"コスト意識の高い"トランプが大統領選挙で勝てば、ウクライナ向け援助は激減すると見込まれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英ユダヤ教会堂襲撃で2人死亡、容疑者はシリア系英国

ビジネス

世界インフレ動向はまちまち、関税の影響にばらつき=

ビジネス

FRB、入手可能な情報に基づき政策を判断=シカゴ連

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story