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ウクライナ戦争

「なぜ日本が支援?」池上彰と考える、侵攻が続くウクライナと私たちのつながり

2024年7月10日(水)11時00分
※JICAトピックスより転載
ジャーナリストの池上彰

<長引くロシアとの戦争の影響により、ウクライナでは読み書きのできない子も出てきているという。「日本も財政が厳しいのに」など批判の声もあるなか、ウクライナを支援し続けることの意味をジャーナリストの池上彰さんと考える>

世界で頻発する、災害や紛争。ニュースは日々更新されていきますが、ロシアによるウクライナ侵攻は、まだ終わっていません。侵攻開始から2年が過ぎたいま、「ウクライナで何が起こっているのか」そして「なぜ日本が支援するのか」を、ジャーナリストの池上彰さんと考えます。記事と動画でお伝えします。

(記事は4月末実施の鼎談をもとに、再構成しています)

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ジャーナリストの池上彰さん(中央)と、ウクライナ人でNPO法人日本ウクライナ友好協会KRAIANY(クラヤヌィ)副理事長のイェブトゥシュク・イーゴルさん(左)、JICAウクライナ事務所長の松永秀樹さんの3人が語り合った

>>●動画はこちら

人々の生活や思い出まで破壊されている

池上 ウクライナの今の状況はどうなんでしょうか。

松永 今年の1月から首都キーウに住んでウクライナ支援にあたっていますが、シェルターに避難する頻度が増えています。当初は月に2、3度ほどだったのに対し、最近は週に2、3度ほど。シェルターに入りながら生活と仕事を続けている状況です※。

池上 最近のロシアの攻撃は、特に発電所などのインフラを破壊してウクライナの人々の生活を破壊し、戦意を喪失させようとする意図的な方針が見えますね。

※シェルターに避難する回数は2024年6月時点で再び減っている。

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池上 彰(いけがみ・あきら) ジャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授。NHKで社会部記者やニュースキャスターを務め2005年に独立。以後テレビや新聞など各種メディアで活動。世界の最新情勢に詳しく、JICA企画のもと日経ビジネスオンライン上で「ウクライナと世界の未来と私たち」と題した特集を執筆するなどウクライナに関する取材も豊富

松永 電力関係の施設に加え、港湾施設や自治体関係の施設が攻撃されている傾向です。港湾施設については、ウクライナは、黒海からルーマニアやブルガリアの沿岸を通る新しい輸出ルートを使用することで穀物などの輸出を回復させるとともに、ロシアに攻撃させにくくしています。ですので大元の輸出拠点の港湾を攻撃することで輸出機能を停止させようとしているわけです。

池上 そうか。ルーマニアやブルガリアはNATOに加盟しているから、ロシアが手を出せない。だからそこに入る前に攻撃するということなんですね。イーゴルさん、特にインフラが破壊されている現実には心が痛みますね。

イーゴル そうですね。そして「インフラが破壊された」「どこかにミサイルが落ちて民間施設が破壊された」と一言で言っても、それはただの施設や建物ではないのです。実家や、学校への通学路、子どもが生まれた病院など、私たちウクライナ人の思い出が詰まっている場所です。そのような場所が攻撃・破壊されると、精神的に自分を破壊されているような気持ちになります。

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イェブトゥシュク・イーゴル(Ievtushuk Igor) NPO法人日本ウクライナ友好協会KRAIANY(クラヤヌィ)副理事長。ウクライナ西部のリュボムリ市生まれ、キーウ国立言語大学日本語学科卒業。2014年のロシア軍によるクリミア半島侵入時に、通訳として日本メディアの取材をサポート。2015年に来日し、筑波大学大学院修了(国際関係論)。IT企業に勤務しながら、日本からウクライナを支援するNPOの副理事長を務める

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