コラム

「地球温暖化を最も恐れているのは中国国民」と欧州機関の意識調査で明らかに...その3つの理由とは?

2024年06月28日(金)18時45分

党の公式方針だから

第二に、中国政府が「環境的文明」を標榜し、温暖化対策に率先して取り組むと表明していることだ。

中国政府が温暖化対策への貢献をアピールするのは、その生産活動によってCO2排出が加速しており、温暖化による災害の被害が表面化しやすい途上国から資金協力などの要求が出やすくなっていることも関係しているとみられる。

ともあれ、実態としてはともかく、 “温暖化対策を進めるべき” が共産党体制の公認スローガンであることは間違いない。

だとすると、中国国内でそれに否定的な論調は出にくくなり、党の公式方針に沿った意見が表明されやすくなっても不思議はない。

とりわけ、欧州投資銀行という外部の機関が行う意識調査に回答者が警戒することもまた想像に難くない。 “温暖化” 以外の選択肢は “失業” や “健康と医療サービス” など、政府の政策・対策への不満表明につながりかねないものであるからなおさらだ。

もっとも、その傾向は外部の調査に対する回答だけではない。

中国でも近年SNSなどで「そもそも温暖化は中国の生産力を削ろうとする西側メディアの捏造」といった陰謀論が表面化している。

しかし、少なくともTVなど政府の統制が強いメディアで “温暖化懐疑論” が出ることはほとんどない。それは自由な報道が認められているがゆえに、電波メディアで温暖化に否定的な論調が表出することも珍しくないアメリカをはじめ欧米各国とは好対照といえる。

経済をブレイクスルーできるから

最後に、温暖化対策とりわけクリーンエネルギー開発が中国経済を復調させると期待されていることだ。

コロナ感染拡大以降、中国経済は一時の勢いが影をひそめ、昨年からは不動産バブル崩壊に端を発する若年失業率の高止まり、海外投資の縮小といったニュースが相次いでいる。

そうしたなか、これまで中国経済を牽引してきた工業製品の輸出にもブレーキがかかっている。

とりわけ鉄鋼製品の販売額はこの数年頭打ちになっている。

その大きな背景には、世界全体のCO2排出量の約10分の1が鉄鋼の生産過程で発生しているといわれるだけに、各国で需要が減退していることがある。

さらに、アメリカなど先進国における輸入関税の引き上げや、これまで中国がインフラ建設を推し進めるなかで鉄鋼製品を売りさばいてきた途上国で、コロナ感染拡大をきっかけに債務危機が表面化してそれまでほど販路を拡大できなくなったことも、これに拍車をかけている。

newsweekjp_20240628055648.jpg

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続落、米雇用統計前の警戒ムード 一

ビジネス

経済同友会の代表幹事に山口・日本IBM社長、新浪氏

ワールド

台湾総統、財政関連法改正に反対 野党主導の議会と溝

ワールド

スイス、26年成長予想を1.1%に上方修正 米関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story