コラム

「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

2024年05月22日(水)13時50分

フランスによるこの頭越しの方針転換はいかにも植民地主義的なやり方だが、ともかく参政権をもつ移住者が増えることはカナックにとって「独立は絶望的」となる。

ヌメアなどで抗議活動がエスカレートするようになったのは、その直後からだ。

カナックに独立派が多いのは、文化的アイデンティティなどだけが理由ではない。

法的には移住者と対等の権利が与えられていても、経済的・社会的にカナックはニューカレドニアの傍流に置かれている。その所得水準はカナック以外の住民と比べて平均32%低い。

また、ニューカレドニア大学の調査によると、カナックの高等教育(大学など)就学率は3%程度で、移住者の1/7以下の割合だ。逆に、失業率は38%で移住者の4倍以上の水準にあたる。

つまり、カナックはニッケル鉱山などの権益を握るヨーロッパ系富裕層、中間層を形成するアジア系の下に位置づけられやすいのだ。「この構造を打破するには独立しかない」となっても不思議ではない。

アゼルバイジャンの “干渉” ?

ニューカレドニアでの騒乱が激しさを増すなか、国際的にはフランスとアゼルバイジャンの対立も目立つようになっている。

フランス政府が「アゼルバイジャンがニューカレドニア問題に干渉し、独立派を支援している」と非難し、アゼルバイジャンの背後には中国やロシアがあると指摘しているからだ。

アゼルバイジャン政府は直接の関与を否定している。しかし、アゼルバイジャン政府は2023年、ニューカレドニアだけでなくマルチニーク、仏領ギアナ、仏領ポリネシアなど、各地のフランス海外領土の独立派を招いた国際会議を開催し、「植民地主義の完全なる廃絶」を掲げた。

こうした経緯から、独立派のなかにはアゼルバイジャンの国旗を掲げるデモ参加者もある。

もともとフランスは、ロシアよりのアゼルバイジャンとの関係が悪化している。アゼルバイジャンと関係の悪い隣国アルメニアをフランスが支援しているからだ。

そのため、アゼルバイジャンの干渉も全く事実無根とはいえないだろう。

とはいえ、それがニューカレドニア騒乱の根本的な理由とまではいえない。むしろ、独立派の不満を増幅させてきたのはフランスの植民地主義だからだ。

こうした不満をすくいあげるように中ロがグローバル・サウスに勢力を広げる状況は、冷戦時代もあったことだ。

つまり、アゼルバイジャンはフランスの “敵失” に乗じているのにすぎず、逆にフランスがアゼルバイジャンを大声で非難するのは自らの失態を覆い隠すものともいえる。ニューカレドニア騒乱の問題は単なる「外国の干渉」ではないのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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