コラム

イスラエル閣僚「ガザに原爆投下」を示唆──強硬発言の裏にある「入植者の孤立感」

2023年11月07日(火)16時10分

グローバル・サウスの結束を促すか

さらに注目すべきは、サウジアラビアがこれまでになく強い非難を表明したことだ。

同国外務省によると、エリヤスの発言は「イスラエル政府に過激主義と野蛮が侵入していることを示した」、「閣僚罷免ではなく閣議出席停止の処分で済ませていることは全ての人間社会の基準と価値観を全く尊重していないものだ」。

2015年からのイエメン内戦で国連が懸念を示すほど苛烈な空爆を行い、民間人の死傷者を数多く出したサウジアラビア政府が「人道」を語れるかには、議論の余地がある。

しかし、確かなことは、アラブ各国がこれまでになく強い拒絶反応をみせ、「イスラーム世界vsイスラエル」の構図がさらに鮮明になったことだ。

そして、これはガザ危機のもつ地政学リスクがさらに高まったことも意味する。

反イスラエルの機運の高まりは、これを擁護する先進国とそれ以外の間の亀裂を深めてきた。

アジア、アフリカ、中南米などグローバル・サウスの多くでは、過剰防衛の目立つイスラエルへの批判が強まっている。

ロシアによるウクライナ民間施設攻撃を「戦争犯罪」と揃って批判した先進国が、イスラエルの過剰防衛ともいえる攻撃に理解を示すダブルスタンダードは、これをさらに強めている。

いわばガザ危機と反イスラエル感情は、グローバル・サウスを固める接着剤になりかねない。とすると、パレスチナ全市民の殺戮をも示唆するエリヤスの「原爆投下」発言は、この効果を強めかねないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

ニューズウィーク日本版 韓国新大統領
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月10日号(6月3日発売)は「韓国新大統領」特集。出直し大統領選を制する「政策なきポピュリスト」李在明の多難な前途――執筆:木村 幹(神戸大大学院教授)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

緩和の出口戦略含め、財政配慮で曲げることはない=内

ワールド

習首席が米へのレアアース輸出に合意、トランプ大統領

ビジネス

アングル:中国製電子たばこに関税直撃、米国への輸入

ワールド

日米関税協議、「一致点見いだせていない」と赤沢氏 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 2
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 3
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが、今どきの高齢女性の姿
  • 4
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 5
    脳内スイッチを入れる「ドーパミン習慣」とは?...「…
  • 6
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    壁に「巨大な穴」が...ペットカメラが記録した「犯行…
  • 10
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story