コラム

イスラエル閣僚「ガザに原爆投下」を示唆──強硬発言の裏にある「入植者の孤立感」

2023年11月07日(火)16時10分

その一方で、入植者は「誰からも祝福も理解もされない」という孤立感を深めやすい。

最大の同盟国アメリカでさえ、一般ユダヤ人の間で占領政策に批判的な意見が広がっている。

孤立感を深めた入植者には、「自分たちを迫害する」世界への不信感から、ますます攻撃的な言動に向かいやすい。

例えばエリヤスは今年8月、「イスラエル軍や警察がこの30年間、パレスチナに関する世界の見方を受け入れて、入植者を罪人とみなしてきた」と批判した。要するに、世界中から批判され、ハマスに攻撃される入植者を守ってこなかった、という不満だ(イスラエルの治安機関の活動を見ればとてもそうは見えないが)。

「個人の失言」とはいえない

世界的に批判される者がより態度を硬化させる構図は珍しくない。

第二次世界大戦後、北アフリカのアルジェリアでフランス支配に対する抵抗や武装蜂起が激しさを増し、国際的にも批判が噴出した結果、当時のドゴール大統領は独立容認に転じた。この時、あくまで独立を認めず、アルジェリア人虐殺やクーデタ、果てはドゴール暗殺まで企てたりしたのは、本土のフランス人ではなくアルジェリアに移りすんだ入植者だった。

宗教的要素などを除くと、孤立感を強めた入植者ほど過激派しやすいという点で、独立反対に固執したアルジェリア入植者と、パレスチナとの和解に反対するイスラエルの入植者はほぼ同じだ。

とすれば、エリヤスを擁護するつもりはない、と断ったうえであえていえば、その「原爆投下」発言はイスラエルの占領政策そのものの産物であり、同様の見解を多くの入植者が抱いているからこそ表面化したとみた方がよい。その意味では「個人の失言」を超えた、根の深いものといえる。

だとしても、エリヤス発言が大きな波紋を呼んだことも当然である。

同盟国アメリカは「政府の公式見解ではない」と問題視しない態度を示しているが、とりわけ周辺各国からは政治的立場を超えて強い反発が生まれた。

アラブ連盟のアフマド・アボウル・ゲイト議長はエリヤス発言が「公然の秘密だったイスラエルの核保有を明らかにした」「パレスチナ人に対するイスラエルの人種差別的な見方が浮き彫りになった」と強い調子で非難した。ゲイトの出身国エジプトは、イスラエルとも国交を持つ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米NSAが中国標準時システムに長期間サイバー

ビジネス

英中銀、金融政策判断をより詳細に説明へ 11月から

ビジネス

米地銀、ストレス増大 準備金は増加=モーニングスタ

ビジネス

欧州、対中貿易交渉でより積極的な行動を=ドイツ連銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story