コラム

「犠牲を払ってもウクライナ解放」vs「今すぐ停戦」──国際世論調査にみる分断

2023年04月10日(月)19時50分
イギリスで訓練を受けるウクライナ兵

イギリスで訓練を受けるウクライナ兵。同様の訓練はイギリス以外のヨーロッパ各国で行われている(2月24日) Henry Nicholls-REUTERS

<ウクライナ戦争に関する国際世論調査の結果をまとめた欧州外交評議会(ECFR)の「西側の結束が明らかになった」という評価には、やや誇張がある>


・国際世論調査の結果、西側では「犠牲を払っても全ウクライナが解放されるべき」という回答が多かった。

・しかし、「犠牲を減らすためできるだけ早く停戦するべき」という回答との差は決して大きくなく、西側内部の意見の分裂が明らかになった。

・さらに、なぜウクライナを支援するかの理由についても、西側のなかで見方は分かれている。

ウクライナ戦争にどんな決着をつけるべきか。これに関する意見の分断は、西側のなかでも広がっている。

国際世論調査の結果

EUのシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)は2月22日、ウクライナ戦争に関する国際世論調査の結果を発表した。これは複数の民間の調査会社(Datapraxis、Gallup、Norstat、YouGov)による調査の結果をECFRがまとめたものだ。

mutsuji230410_1.jpg

その結果、ウクライナ戦争をどのように終わらせるかについて、温度差が改めて浮き彫りになった。

上の表で示したように、西側では「さらに多くの人が生命や住む場所を失っても、ウクライナは全ての領土を取り戻すべき」と回答した人の割合が最も高かった。

とりわけイギリスでは半数近くの人がこれを支持した。イギリスは歴史的にロシアと対立することが多く、最近では兵器提供だけでなくウクライナ軍の訓練も行っている。

「即時停戦」は誰の利益か

これに対して、ロシアで「ウクライナが領土の一部を失うことになっても、戦闘をできるだけ早く終わらせるべき」が最も多かったのは不思議ではない。

昨年以来、プーチン政権はしばしばウクライナ政府に停戦を提案してきた。ロシアがウクライナ東部ドンバス地方を制圧している状態で停戦を実現できれば、この地におけるロシアの実効支配は既成事実として固定化できるからだ。

しかし、バイデン政権をはじめ欧米各国の政府も戦闘の長期化を避けるため、(中国の和平提案には拒絶反応をみせながらも)停戦交渉そのものを全面的に否定してきたわけではない。

だからこそ、ウクライナ政府は「交渉はロシアが全面撤退してから」と主張し、ロシアの停戦提案だけでなく、交渉を暗に勧める欧米各国にも拒絶反応をみせてきた。

そのため、「即時停戦」は犠牲を少なくする選択肢であっても、西側では「親ロシア派」のレッテルを貼られかねない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税交渉で来週早々に訪米、きょうは協議してない=赤

ワールド

アングル:アルゼンチン最高裁の地下にナチス資料、よ

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 2
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞の遺伝子に火を点ける「プルアップ」とは何か?
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 5
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 6
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 7
    日本では「戦争が終わって80年」...来日して35年目の…
  • 8
    ドクイトグモに噛まれた女性、顔全体に「恐ろしい症…
  • 9
    【クイズ】世界で1番売れている「日本の漫画」はどれ…
  • 10
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story