コラム

撃たれても倒れないロシアの「ゾンビ兵」、ウクライナ側でも深刻化する薬物問題

2023年04月06日(木)14時10分
覚醒剤

(写真はイメージです) FotoMaximum-iStock

<ロシアが兵士に覚醒剤を投与している疑惑は以前からあるが、ウクライナの民間人の薬物問題も戦争を機に深刻化している>


・ロシア軍事企業「ワグネル」兵士が銃で撃たれても倒れないなど、覚醒剤投与の疑惑が浮上している。

・ワグネルは疑惑を否定しているが、戦場に送り出される兵士への麻薬支給はこれまでにもあった。

・その一方で、ウクライナ国内の薬物問題も戦争で深刻化している。

「撃たれても倒れない」「味方の犠牲をまるで気にしていない」などの証言から、ロシアが覚醒剤を兵士に投与している疑惑が濃くなっている。

「ゾンビ映画みたいだ」

ウクライナ東部のドネツク州バフムトで4月3日、ロシア軍事企業「ワグネル」の部隊が市庁舎にロシア国旗を掲げ、制圧を宣言した。しかし、その後もバフムト西部ではウクライナ軍の抵抗が続いていると英BBCは報じている。

ロシアはウクライナ東部の制圧を重視し、バフムトはその主戦場になっている。

その制圧のため、ロシアが兵士に覚醒剤を投与している疑惑は以前から浮上していた。昨年11月、あるウクライナ兵はメディア取材に「まるでゾンビだ。いくら撃っても、後から後から出てくるんだ」と証言した。

さらに米CNNは2月、バフムトで戦う別のウクライナ兵の証言を紹介した。「確かに弾丸が当たったはずなのに倒れない」、「仲間の死体の山を平気で乗り越えてくる」、「ゾンビ映画みたいだ」、「あいつらは絶対クスリをやってる」。

こうした疑惑や証言をワグネルのプリゴジン司令官は否定している。また、CNNはじめ各メディアも裏づけを取れておらず、あくまで疑惑として報じている。

疑惑を濃くする事情

ただし、疑惑が濃いだけの理由もある。

第一に、あまりに過酷な戦場だ。「義勇兵」としてウクライナ軍に協力する元アメリカ海兵隊員は「バフムト周辺の最前線で生きられるのは平均4時間」と証言している。

その一方で、現場のロシア勢力はバフムト制圧を求めるプーチン政権のプレッシャーにさらされている。そのため、ロシア側が兵士に高揚感を与え、恐怖や苦痛を無視させるため、手段を選ばなかったとしても不思議ではない。

第二に、バフムトに展開するロシアの主戦力がワグネルであることだ。

ワグネルは実質的にプーチン政権と一体だが、形式的には民間企業であるため、さまざまな規制が緩い。これまでにもワグネルが兵員増強のため、刑務所の受刑者を解放と引き換えにリクルートしていたことが判明している。最近では、かき集めても国民から反発が出にくい移民が標的にされているとみられる。

戦闘経験がほぼゼロの者を短期間で戦線に投入するため、訓練なども十分でないとみられる。だとすれば、覚醒剤を投与し、兵士に無敵の感覚を与えて突撃させることは、極めてコスパの高い手段ともいえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story