コラム

ウクライナを支える最先端テクノロジー──ハイテク企業は戦場を目指す

2022年10月31日(月)20時10分

クリアビュー社によると、顔認識システムは離ればなれになった家族の統合にも役立つという。

さらにAIは通信などの解析にも利用されている。プライマーAI社はウクライナで、傍受されたロシア軍の音声通信をテキスト化し、データとして蓄積するシステムを運用している。

こうした技術と組み合わせることで、隠密性の高いドローン攻撃は、さらに効率的になるとみられる。

10月だけで6人以上のロシア軍の司令官がカミカゼ・ドローンに殺害されているが、これにAIが重要な役割を果たしたと指摘される。

「イーロン・マスクは英雄だ」

もっとも、ロシアもウクライナのドローン攻撃を、指をくわえて眺めているわけではない。ロシア自身もドローン攻撃を多用する一方、ドローンやミサイルの電波やレーダーを妨害するクラスハ-S4など対空電子戦システムを投入しているとみられる。

そのため、ウクライナのドローンはしばしばロシア側に撃墜されてきた。

ウクライナが開戦当初から多用してきたトルコ製バイラクタルTV2は、これまでリビアなどで「実績」を積み、一世を風靡した。しかし、翼幅が12メートルある機体は、コンパクト化が進む近年の軍用ドローンとしては大型の部類に入る(例えばロシア製オルラン10の翼幅は3メートル程度)。

そのため、7月に現地調査したアメリカの安全保障の専門家マーク・カンチアン博士は「ウクライナの多くのドローンパイロットによると、ドローンの果たす役割は限定的だ」と述べた。

ところが、その後ウクライナ側はジャミングをブロックする方法を開発している他、安定した通信回線を確保することでこれに対応してきた。

そこで重要な役割を果たしているのが、アメリカのスペースX社だ。宇宙ロケットビジネスを展開する同社は、人工衛星システム(コンステレーション)スターリンクを運用し、衛星を介したインターネットサービスを提供している。

ウクライナの情報担当相がTwitterを通じて各国のハイテク企業に支援を呼びかけ、これにスペースX創業者のイーロン・マスク氏が反応したわけだが、ともかくスターリンクを通じてウクライナ側はドローン操作を安定させているといわれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story