15人死亡の銃乱射事件...AIが暴いた、ガザ紛争後に急増する「新しい」反ユダヤ主義の正体
Bondi’s Hate Backdrop
容疑者に立ち向かい銃を奪った男性は撃たれて負傷した(SNS投稿より) FOTOGRAMMA IPAーSIPA USAーREUTERS
<ガザ紛争が勃発する前後のSNS投稿を比較分析すると、「新しい」反ユダヤ主義が急激に広がっていた>
2025年12月14日、オーストラリアの最大都市シドニーのボンダイビーチでは、多くの人がユダヤ教の祭り「ハヌカ」の行事に参加していた。そこへ2人の男が銃を乱射。10歳の子供を含む15人が死亡し、多くの負傷者が出た。殺害犯の1人は射殺された。
衝撃的な事件である。だが悲しいことに、憎悪や過激主義者による暴力を研究する筆者にとっては、予想外の出来事ではなかった。
ユダヤ人コミュニティーは長年にわたり、テロの大きな標的となってきた。この分野に携わる多くの専門家は、いずれオーストラリア国内で深刻な事件が起こる可能性を予見していた。
今回の事件について、この原稿を書いている時点では分からないことが多い。2人の容疑者の背景を推測するのもまだ早い。だが、より広い意味での反ユダヤ感情については示せることがある。
私たちの研究はまだ初期段階だ。しかしこの研究は23年10月7日にガザ紛争が勃発して以降、オーストラリアで反ユダヤ主義が憂慮すべき段階まで高まっていることを示している。
ネット上に高まる敵意
研究ではAI(人工知能)を用いて、ユダヤ人社会を含むオーストラリアの各コミュニティーを標的にしたSNS上の言説を追跡。過激主義の専門家やユダヤ人コミュニティーの協力も得て、投稿を分類した。その結果、SNSに表れている反ユダヤ主義は大きく2つのタイプに分かれることが判明した。「従来型」の反ユダヤ主義と「新しい」反ユダヤ主義だ。
「従来型」は、ユダヤ人という存在そのものを敵視するもので、ユダヤ人を異質で危険、あるいは道徳的に堕落した存在として描く神話や固定観念に基づいている。
「新しい」反ユダヤ主義は、矛先が個々のユダヤ人ではなくイスラエルという国家に向けられる。国の行動に対して、ユダヤ人全体の責任を問うというものだ。
「従来型」と「新しい」反ユダヤ主義の両方を追跡調査したところ、ガザ紛争の勃発以降は、どちらの反ユダヤ主義も大きく高まっていることが分かった。
研究では、反ユダヤ主義の拡大を把握するために、オーストラリアから発信されたと確認できるX(旧ツイッター)の投稿を分析した。
その結果、「従来型」の反ユダヤ主義に関連する投稿はガザ紛争勃発前の1年間は月平均34件であったが、勃発後の1年間では2021件に増えていた。
それに対して「新しい」反ユダヤ主義に関する投稿の増加幅はさらに大きく、勃発前の1年間は月平均505件だったが、その後の1年間では2万1724件に上った。
「従来型」として分類される投稿の中には「ユダヤ人を皆殺しにしろ」などの露骨な呼びかけのほか、ナチスのホロコーストを過小評価したり否定するなどの間接的な反ユダヤ主義も含まれた。「ユダヤ人はオーストラリアをつぶすために金を出している」といった陰謀論もあった。
だが私たちのAIモデルが反ユダヤ主義と識別した投稿の大半は、「新しい」反ユダヤ主義のものだった。ここにはイスラエルの動向に関連付けて、ユダヤ人コミュニティー全体を非難する投稿が含まれていた。
例えば、オーストラリアのユダヤ系住民全員を「赤ん坊殺し」「ナチス同然のクズ野郎ども」などと中傷する投稿だ。ネット上でユダヤ人に対する敵意が、全体として高まっていることが浮き彫りになった。
資源の投入と法整備を
主流のSNSでは、過激で露骨な暴力への呼びかけはあまり見かけない。だが反ユダヤ主義的な投稿は必ずしも露骨な誹謗中傷を含んでいないため、主流のSNSでも確認できる。とりわけドナルド・トランプ米大統領の第2次政権スタート後に、メタが投稿監視のポリシーを緩和して以降は、メタの運営するインスタグラムでも反ユダヤ主義の投稿が確認されている。
オーストラリア初の反ユダヤ主義問題担当特使となったジリアン・シーガルは25年7月、反ユダヤ主義に対処する計画を発表した。彼女の提言は、大きく以下の3つの分野に分けられる。
第1は暴力や犯罪の防止。省庁間の連携強化に加え、危険人物の入国を阻止することを目的とした新たな政策が含まれる。
第2は、ヘイトスピーチ対策の強化。反ユダヤ主義を含む全ての形のヘイトを規制するとともに、各プラットフォームのポリシーやアルゴリズムへの監督を強化する。
第3に、メディアや教育、文化施設を反ユダヤ主義とは無縁な空間に保つこと。ここにはジャーナリストの研修や、教育プログラムの実施、反ユダヤ主義への対処を怠った組織に対する公的資金の拠出条件を厳格化することなどが含まれる。
政府が第2、第3の提言に早い段階で対応していれば、今回の事件を未然に防げたという見方もある。反ユダヤ主義が広く蔓延すれば暴力の温床になると、一般には考えられているからだ。
だが、その因果関係を立証するのは難しい。自発的か組織的かを問わず、テロを実行するような人物が社会の変化の影響を受けるとは限らないからだ。
今回ほどの規模のテロを防ぐために中核となるのは、実効性のある法執行だ。そのためには十分な人員・予算の投入と、捜査や介入の範囲を明確にする法制度が必要になる。
もちろん教育や文化的土壌の変革も重要だ。しかし当面は、銃規制や過激主義ネットワークの監視といった取り組みのほうが大きな効果を期待できるだろう。
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Matteo Vergani, Associate Professor and Director of the Tackling Hate Lab, Deakin University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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