コラム

ウクライナを支える最先端テクノロジー──ハイテク企業は戦場を目指す

2022年10月31日(月)20時10分
イギリスで軍事訓練を受けるウクライナ兵

イギリスで軍事訓練を受けるウクライナ兵(2022年8月15日) Toby Melville-REUTERS

<ドローンだけでなくICT、AI、宇宙技術などにかかわる欧米企業が、ロシアによる侵攻後に続々とウクライナに進出している>


・欧米のハイテク企業のなかにはウクライナの軍事作戦を技術面で支えるものが少なくない。

・伝統的にロシアは民生分野の技術開発で西側にリードされやすい。

・ウクライナの戦場で実用化された最先端テクノロジーは、今後の戦争のあり方を左右するとみられる。

人員などで圧倒的に劣るはずのウクライナがロシアに対抗し続けられる一因は、西側のハイテク産業の支援にある。

ロシアをいら立たせる西側の技術

プーチン大統領の「ウクライナが汚い爆弾(ダーティーボム)を使おうとしている」という発言は、対立をエスカレートさせる、あるいは国内向けに戦争の大義を強調する手段というのが、西側の多くの専門家の一致した見解だ。少なくともウクライナがその準備をしているという証拠はない。

いずれにしても、そこにはロシア政府のいらだちをうかがえる。

ロシアはウクライナ東部ドンバスの占領を既成事実化しようとしているが、この地をめぐるウクライナ側の反撃は加速している。当初プーチン大統領は「2日間でウクライナを制圧できる」と考えていたとみられるが、結果は大きく異なる。

その大きな要因の一つは、西側のハイテク企業によるウクライナ支援にある。

その象徴は今やよく知られるドローン(無人航空機)だが、ウクライナ、ロシアの双方とも、軍用ドローンより安価な民生ドローンを改造して、即席の自爆攻撃用、いわゆるカミカゼ・ドローンとして利用している。さらに、ウクライナ側は民生用3Dプリンターを用いて爆弾を製造しているという報告もある。

しかし、ドローン以外にも、情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、宇宙技術などにかかわる欧米企業が、ロシアによる侵攻後に相次いでウクライナ進出を加速している。

標的を確認するドローン

例えば、ウクライナは開戦まもない3月頃から、顔認証システムを搭載したドローンを投入している。これによってロシアの将兵を特定し、効率的に攻撃できるとみられる。

ドローンに顔認証システムを搭載することは、これまでにもアフガニスタンやリビアなどでみられたが、ウクライナではより大々的に行われている。

この技術はアメリカのAI大手、クリアビュー社が提供したものだ。ロイター通信によると、ロシアによる侵攻直後、同社CEOトン・タット氏が自らウクライナ政府に技術協力を申し出たという。

クリアビュー社はロシアのSNSサイトから20億枚以上の顔写真を入手しており、このデータベースは標的のスムーズな特定を可能にする。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、アルゼンチン支援は「資金投入ではなく信

ワールド

アプライド、26年度売上高6億ドル下押し予想 米輸

ワールド

カナダ中銀が物価指標計測の見直し検討、最新動向適切

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 半導体関連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story