コラム

「タリバンはぬるい」カブール空港爆破テロ実行犯、IS-Kの野望と危険度

2021年08月31日(火)15時35分

「敵との妥協」はコーランで戒められている。これを拠り所に、IS-Kはタリバンを「裏切り者」と位置づける。

タリバンも米軍協力者のアフガン脱出を引き止めようとしているが、実質的なアクションはほとんどない。そのなかでIS-Kが多くのアメリカ人を含む死者を出すテロを起こしたことは、タリバンと比べた自らの正統性を過激派予備軍にアピールするものだ。

世界の耳目を集めるテロ活動は、参加者をリクルートするための、イスラーム過激派の常套手段である。

先述のように、IS-Kは米軍だけでなくタリバンとも戦闘を重ねてきた。その結果、アフガン国内におけるIS-Kの支配地域は縮小している。

いわばIS-Kはタリバンに対する劣勢を挽回するため、あえてカブール国際空港を狙ったとみられる。そのため、アメリカや多くの国と同様、タリバンもこのテロを非難している。

タリバンにとってのIS-K

こうしたIS-Kはタリバンにとって、「面倒ごとを引き起こす連中」であることは間違いない。

タリバンにしてみれば、アフガン人の米軍協力者はともかく、アメリカ人を標的にすれば、アメリカ撤退のスケジュールに支障をきたしかねない。1日も早く正統な政府としての認知を得たいタリバンにとって、「国内の治安に不安がある」とみなされること自体、喜ばしい話ではない。

ただし、その一方で、外国人を標的にしたIS-Kの無差別テロがエスカレートすれば、「タリバンの方がまだマシ」という見方を集める手段にもなる。それは「アフガンの治安回復のためにはタリバン政権を認めて支援するしかない」という国際世論の土台にもなる。その意味では、タリバンにとってIS-Kは「ナントカとハサミは使いよう」ともなる。

いずれに転ぶにせよ、タリバンが一朝一夕にIS-Kを排除できない以上、今後ともIS-Kによるテロ活動は増えこそすれ減ることはないとみられる。それがタリバン復権後のアフガンをさらなる混沌に引き摺り込むことだけは確かなのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 10
    男の子たちが「危ない遊び」を...シャワー中に外から…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story