コラム

三井住友銀行ソースコード漏洩の警鐘──サイバーセキュリティ後進国の課題とは

2021年02月01日(月)06時30分

注目が集まっただけに意図的な漏洩行為が今後発生する懸念も(写真はイメージです) BrianAJackson-iStock

三井住友銀行のソースコードが漏洩した問題は、一個人の行いというにとどまらず、初期資本主義経済でもみられた「機械打ちこわし」運動の現代版というリスクを知らしめた。

騒動の顛末

1月28日、三井住友銀行(SMBC)のシステムに関するソースコードが外部のウェブサイトに無断で掲載されていることが発覚した。掲載したのはSMBCの委託先企業に勤めるシステムエンジニア(SE)だった。

この問題がTwitter上で炎上したため、すでに様々なところでまとめられているが、一連の騒動の主な顛末は以下の通り。

・問題のSEがオンライン艦隊ゲーム上で韓国などに対する差別的発言を行ない、これに批判が集まった

・このSEのアカウントなどから、他の複数のユーザーが氏名、年齢、勤務先などを特定した

・その際、このSEがSMBCなどからの委託で開発したコードを、ソースコード共有サービス「GitHub」に公開していることが発覚した

・このなかにはSMBCだけでなく、同じく委託先と思われる警視庁、NTTデータなども含まれていた

・これに他のユーザーから批判が噴出するや、本人がTwitter上で理由などを説明した

・それによると、問題のSEは勤務歴20年だが年収は300万円ほどで、自分が作成したソースコードから年収を診断できるGithubのサービスを利用するために掲載したという

・当初このSEは「知財保護法に触れていない」といった強気の書き込みを続けていたが、やがて「Github」がTwitterのトレンド1位になるなど騒ぎが大きくなると「公開がデフォルトだと気づかなかった」「関係各所にご迷惑をおかけしました」「事態の収拾に向けて法的措置の準備をしています」と発信した

・その後、アカウントは非公開になった

・1月29日、SMBCはソースコードが公開されていたことを認めたうえで、「顧客情報やセキュリティに問題はない」と発表した

海外からのサイバーテロではない脅威

情報通信の専門家などはこの騒動の問題点として、二つのポイントを指摘している。

・どんな理由であれ、顧客のソースコードを無断で公開したこと(これによってハッキングなどが起こりやすくなる)

・このSEがSMBCなどのソースコードを持ち出せていたこと

今回、やはり情報が漏洩した警視庁は2001年に「サイバーテロ対策協議会」を発足させ、重要インフラ事業者などとともにセキュリティ対策を行なってきた。とりわけ近年では、北朝鮮、中国、ロシアなどによる組織的なサイバーテロが「新しい攻撃」となっている。

しかし、今回の一件は脅威が外部にあるとは限らないことを浮き彫りにした。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story