最新記事

情報科学

インチキ陰謀論「Qアノン」がばらまく偽情報を科学は止められるか

CAN SCIENCE STOP QANON?

2020年11月4日(水)17時40分
デービッド・H・フリードマン

Qアノンは規制を迂回し各種プラットフォームを渡り歩いて信者を拡大 RICK LOOMIS/GETTY IMAGES

<公正な選挙の実施を妨げているQアノン。陰謀論を拡散する謎の集団はいかにして信者を取り込んでいるのか。影響力拡大の実態と、制御が困難な理由とは?>

最初に仕掛けた3人の名は分かっている。トレーシー・ディアス、ポール・ファーバー、そしてコールマン・ロジャースだ。彼らが謎の人物「Q」に成り済まし、リベラル派は危険な小児性愛者だという怪しげな陰謀論をばらまいた。2018年のことで、それがQアノン(匿名のQ)と呼ばれる偽情報拡散ネットワークの始まりだった。

彼らはインチキ情報の拡散で巧みに稼いでいる。まずはアメリカ政府の最高機密にアクセスできるという人物「Q」をでっち上げ、ドナルド・トランプ米大統領の下でヒラリー・クリントン元国務長官らの悪徳小児性愛者を一斉検挙する作戦が進行中だという説をSNSに投稿した。

「Q」の投稿は暗号交じりで難解なので、彼らはそれを解読し、民主党は小児性愛と人身売買の悪魔的カルト集団だなどと解説して転送し、情報拡散の「ノード(起点)」となった。それを読んだ人が「いいね」を付けて転送したり、リツイートしたりすれば、そこに新たなノードができるわけだ。

こうして「エッジ(ノード間のつながり)」を増やしたQアノンは、今やアメリカ社会に有害な偽情報をばらまく危険な存在だ。現職大統領のトランプもQアノン絡みの偽情報を堂々とばらまいている。ある調査によると、彼は今年8月までにQアノン絡みのツイッターアカウント129件を引用、あるいはリツイートしていた。

Qアノンは暴力の温床ともなっている。4年前の大統領選の終盤に、首都ワシントン郊外のピザ店地下でヒラリー・クリントンらが児童買春にふけっているとの偽情報が流れ、それを信じた男が店に乱入して発砲した事件(通称「ピザゲート」、もちろん児童買春など事実無根だった)は、いわばQアノンの前史。その後もQアノン信者たちは少なくとも2件の殺人と1件の児童誘拐に関与し、カリフォルニアでは山に火を付け、フーバーダムでは橋を封鎖し、アリゾナ州トゥーソンではセメント工場を占拠した。先にミシガン州知事の拉致を企てたとして検挙された男の1人も、Qアノン流の陰謀論をフェイスブックに書き込んでいた。

Qアノンの勢いの前に、SNSの運営各社は無力だ。FBIは昨年5月にQアノンをテロ組織に認定しているが、フェイスブックは今もQアノンを閉め出せていない。10月6日にはQアノン関連のグループやページをフェイスブックから排除し、傘下のインスタグラムでも関連アカウントを禁止した。しかし個人のプロファイルは残っているので、そこからQアノン関連の投稿をいくらでも拡散できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平案を提示する用意=外相

ワールド

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収承認の意向 「計

ワールド

アングル:AIで信号サイクル最適化、ブエノスアイレ

ビジネス

アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 4
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 5
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 6
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 7
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 8
    「娘の眼球がこぼれ落ちてる!」見守りカメラに映っ…
  • 9
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 10
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中