コラム

中国のアフリカ人差別でばれたコロナ支援外交の本音

2020年04月27日(月)20時25分

ケニアの首都ナイロビのスラム街(4月19日) THOMAS MUKOYA-REUTERS


・コロナ後を見据える中国は海外向けの医療支援を増やしており、なかでも医療が貧弱なアフリカは重要度が高い

・しかし、アフリカではこのタイミングで「中国嫌い」が加速しており、中国にとっての足かせにもなっている

・アフリカにおける反中感情は、「ウィルスが海外から持ち込まれる」と警戒する中国で、アフリカ人への差別が広がっていることによる

「誰かのせいにしたい」風潮が世界的に高まっているが、中国ではアフリカ人が「コロナの原因」と差別されている。この人種差別はコロナ後の世界を見据えた外交を活発化させる中国にとってアキレス腱にもなり得る。

マクドナルドが「アフリカ人お断り」

広東省広州のマクドナルドの店舗は4月14日、入り口に「アフリカ人入店お断り」の貼り紙を貼りだしたが、その写真がSNSなどで拡散した結果、謝罪に追い込まれた。

これは氷山の一角に過ぎない。中国政府が3月半ば、「コロナのピークを過ぎた」と宣言するのと同時に「外国からコロナが持ち込まれる懸念がある」と述べたこともあり、医療体制がとりわけ貧弱なアフリカの出身者が、あたかもコロナの原因であるかのように白い目で見られているのだ。

その結果、Twitterには住んでいた部屋をいきなりオーナーに追い出されてホームレスになったり、警官にいきなり拘束されたりするアフリカ人たちの姿が溢れている。

また、英BBCの取材に応えたシエラレオネ出身の女性は、「ピーク越え」が宣言された後もアフリカ人にはPCR検査を義務づけられ、自分は検査結果が2回とも陰性だったにもかかわらず隔離されていると証言している。

中国・アフリカ関係の地雷

アフリカ進出を加速させる中国は、人の交流を増やしてきた。そのため、中国には8万人ともいわれる留学生をはじめアフリカ人が数多く滞在している。

こうした人の交流は従来、中国とアフリカの関係の強さの象徴だった。しかし、それは今や外交的な地雷にもなっている

中国と異なりアフリカのほとんどの国では、たとえ手順に問題があっても選挙が行われ、ネット空間も中国よりは自由だ。そのため、中国でのアフリカ人差別に激高する世論に政府も反応せざるを得ない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story