コラム

クルド人を見捨てたのはアメリカだけではない

2019年10月17日(木)15時20分

そして、その状況はすでに生まれつつある。実際、先述のように、クルド人はトルコの攻撃を受け、自ら進んでシリア政府の「保護下」に入っている。

これはトルコ以外の関係各国にとっても利益になる。

シリア政府もクルド人の独立を決して認めていない。また、シリア政府が全土を回復すれば、ここを中東の足場にするロシアにとっても安心材料になる。そして、やはり国内にクルド人問題を抱え、さらにシリア内戦でシリア政府を支援してきた隣国イランにとっても悪い話ではない。

「クルド人を独立させないこと」が落し所

そのうえ、これはクルド人を支援してきた欧米諸国の利益にも反しない。クルド人地域をシリア政府とロシアが握ることはIS対策にもなるからだ。

欧米諸国では「YPGの勢力衰退とアメリカ軍の撤退で、ISが息を吹き返す」という見方が支配的だ。しかし、シリアでIS占領地域の多くを制圧してきたのは、市民の犠牲を厭わない空爆などを繰り返したシリア軍とロシア軍だった。(その良し悪しはともかく)シリア軍やロシア軍がクルド人支配地域をすっかり手中に収めれば、ISの残党にとって、YPGやアメリカ軍以上の脅威になるだろう。

シリア内戦発生直後、欧米諸国はアサド大統領の独裁が内戦を招いたとして「アサド退陣」を求めた。それまで関係の悪かったアサド大統領を、どさくさに紛れて引きずり降ろそうとしたわけだが、ロシアの支援もあってシリア政府は今やクルド人支配地域以外のほとんどを手中に収めている。今更「アサド退陣」がほぼ不可能なら、欧米諸国が「シリア政府によるIS掃討」をセカンド・ベストと捉えても不思議ではない。それなら、欧米諸国がIS掃討のためのコストを負担しなくて済むからだ。

もちろん、クルド人地域をシリアやロシアの手に委ねれば、クルド人を見捨てることになり、欧米諸国に「裏切り者」の汚点は残る。しかし、国際政治に裏切りはつき物で、多くの人は長く覚えていない。

だとすると、クルド人がシリア政府の保護下に収まることは、関係各国にとっての落とし所になるとみてよい。もちろん、それがクルド人の涙の上に成り立つことは、いうまでもない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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