コラム

イラン攻撃を命令しながら直前に撤回したトランプ――気まぐれか、計算か?

2019年06月24日(月)12時30分

Lucas Jackson-REUTERS


・トランプ大統領はイランのレーダー基地などへの攻撃を命令したが、直前になって命令を撤回した

・そこには攻撃すると威嚇してイランを協議の場に引きずり出そうとしたが結果的に失敗した、という可能性と、直前になって影響の大きさを初めて真剣に考えた、という2つの可能性がある

・いずれの場合も、イランとの神経戦でアメリカが優位に立っていない点で共通する

トランプ大統領がイラン攻撃を命令しながら直前になってこれを撤回したことは、イランをめぐる神経戦でアメリカが優位に立っていないことを示す。

攻撃命令の撤回

トランプ大統領は21日、イランのレーダー基地などを標的とする攻撃命令を下した。これは20日、アメリカの無人偵察機グローバル・ホークがイラン近海で撃墜されたことを受けてのものだった。

これをいち早く報じたニューヨーク・タイムズによると、トランプ政権の内部ではポンペオ国務長官、ボルトン国家安全保障補佐官、ハスペルCIA長官らが攻撃に賛成していた一方、国防総省は「周辺地域に展開するアメリカ軍兵士を危険にさらす」と反対していた。

ところが、命令によってアメリカ軍が配備についたものの、直前になってトランプ氏は命令を撤回した。これはトランプ大統領が議会の上下両院の責任者らと会合を開いた後のことだった。

これに関してトランプ大統領は「軍からの報告で150人以上が死亡することが分かったので、10分前に止めた。無人偵察機が撃墜されたことと釣り合いが合わないからだ」と説明している。

なぜ撤回されたか

筆者は以前、アメリカにとってのイラン攻撃のリスクについて整理した。その観点からすれば、攻撃しなかったのは合理的な判断ともいえる。

とはいえ、トランプ大統領の説明を額面通り受け止めることはできず、多くの疑問が残る。

これも以前から述べてきたように、ペルシャ湾一帯で緊張を高めてきたのは、イランよりむしろアメリカだ。その意味で、「無人偵察機が公海上で撃墜された(イランは「無人偵察機が領空侵犯をしたと主張している)」ことは、攻撃には絶好の大義だった。このタイミングで急に釣り合いを持ち出されても、これまでイランに限らず相手との釣り合いを無視して一方的な行動を繰り返してきたのが他ならないトランプ氏であるだけに、違和感がある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラの変革は武力以外の方法で、ローマ教皇が米

ビジネス

財政の持続可能性に配慮しつつ、戦略的に財政出動を行

ビジネス

中国サービス部門の民間PMI、11月は5カ月ぶり低

ビジネス

米半導体マーベル、同業セレスティアルAIを買収
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story