コラム

成果が問われる安倍首相のイラン訪問――何をもって「成功」と呼ぶか

2019年06月12日(水)11時55分

衝突の回避がアメリカにもイランにも利益になることは言うまでもない。とはいえ、イランにしてみれば「会って何を話せというのか」というのが率直なところだろう

トランプ大統領は一方的に核合意を破棄し、根拠不明の「脅威」を言い立て、しかも軍事的圧力を加えながら「我々には協議の用意がある」と言ってきた。アメリカを信用しないイランにとって、核合意に含まれなかった弾道ミサイルも規制すべきというトランプ大統領の要望を呑むことは自滅行為に等しく、協議の余地はない。

そのため、対立のエスカレートを受け、フランスのマクロン大統領がトランプ大統領(およびその同盟国で反イラン的なサウジアラビアやイスラエル)の求める弾道ミサイル規制を含む新たな交渉を提案したのに対して、イラン外務省のムサビ報道官は現状の核合意を変更する可能性を否定している。

イランと北朝鮮の違い

手段を問わず圧力を加えて協議に持ち込むのは北朝鮮でもみられたトランプ流だが、北朝鮮とイランでは立場が違う。

北朝鮮は自らの体制を認知させるため、もともとアメリカと直接協議することを望んでいた。核不拡散条約をはじめ各種の国際ルールに明らかに反してでも、アメリカと対等の立場で協議の場に臨むことは、北朝鮮にとって「望むところ」だったといえる(首脳会談の結果はともかく)。

これに対して、イランはそもそも自分の体制をアメリカに認めさせることを北朝鮮ほど重視していない。そのうえ、少なくとも一度は合意した内容を一方的に反故にしたのがアメリカである以上、筋からいえば今更アメリカの認知を受ける必要もない

この状況でアメリカとの協議に応じれば、国内で「脅しに屈した」と批判されやすいだけでなく、「無理な要求をしているのはアメリカ」という自らの国際的な正当性もフイにしかねない。

「成功」の先にあるもの

こうしてみた時、安倍首相が提案してもイランがアメリカとの協議に応じる可能性は高くない。それだけに、安倍首相がイラン政府に「アメリカと協議する」と約束させることができれば、一応「成功」と呼べるかもしれない

一方、それができなかった場合、緊張の緩和には繋がらない。そればかりか、「成功」しなければ、むしろ緊張がさらにエスカレートするきっかけにもなりかねない。トランプ大統領は自分の無理押しを棚に上げて「日本が仲介してくれたのに、イランは協議を断った」と自らを正当化しかねないからだ。

逆に、「成功」したとしても、緊張がすぐに緩和するかは疑問だ。先述のように、トランプ氏の要望はイランからみて呑めないもので、着地点を見出すのが難しい。その場合、鳴り物入りで実現しながら事実上何も決まらない米朝首脳会談の二の舞にさえなりかねない

だとすれば、安倍首相が「成功」してもしなくても、イラン危機が短期間で収束する見込みは薄いと言わざるを得ないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20190618issue-cover200.jpg
※6月18日号(6月11日発売)は「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集。「全米最高の教授」の1人、サム・ポトリッキオが説く「勝ち残る指導者」の条件とは? 必読リーダー本16選、ポトリッキオ教授から日本人への提言も。


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、トランプ米大統領と電話会談 今春訪米を調

ビジネス

独製造業PMI、12月改定47.0に低下 10カ月

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、12月48.8に縮小 9カ月

ワールド

イランで大規模デモ、景気低迷への抗議で死者も トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 5
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story