コラム

「アラブの春」再び? 中東で広がる抗議デモの嵐

2019年03月11日(月)19時00分

アルジェリアの首都アルジェで、権力の座に居座る大統領の退陣を求める学生のデモ(3月10日) Ramzi Boudina-REUTERS


・アラブ諸国では生活苦を背景に、「独裁者」への抗議デモが広がっている。

・その構図は2011年の「アラブの春」を思い起こさせる。

・とりわけアルジェリアやスーダンなどでの政治変動は、「テロとの戦い」の文脈からも大きな意味をもつ。

アラブ諸国では政府への抗議デモが各地で発生しており、その背景には生活苦がある。2011年に発生した政治変動「アラブの春」はその後、シリア内戦や「イスラーム国」(IS)台頭を引き起こしたが、今回の各地での抗議デモも地域の不安定化材料になる危険性を抱えている。

82歳の大統領

中東・北アフリカでは政府への抗議デモが広がっている。そのうちの一つ、アルジェリアでは3月8日、ブーテフリカ大統領の辞任を求める数万人のデモが首都アルジェで発生し、195人以上の逮捕者を出した。

82歳と高齢のブーテフリカ氏は1999年から大統領の座にあり、2013年に脳梗塞で倒れて以来、車いす生活を送っている。しかし、それ以前と同様、公の場に出るときには灼熱のさなかでも常にスリーピースのスーツを欠かさない。

抗議デモのきっかけは、4月に行われる大統領選挙に、ブーテフリカ氏が出馬を表明したことだった。高齢であるうえ、健康状態さえ疑わしいブーテフリカ大統領による長期政権には、とりわけ若い世代からの批判が目立つ。

広がる批判に、ブーテフリカ氏は大統領選挙に立候補するとしながらも、「任期を全うするつもりはない」とも述べ、任期途中で降板することを示唆した。つまり、「すぐ辞めるから5期目の入り口だけは認めてくれ」ということだが、任期途中で辞める前提で立候補するという支離滅裂さは、それだけブーテフリカ政権への批判の高まりを象徴する。

黄色いベストの販売を禁止

抗議デモが広がるのはアルジェリアだけではない。

政府への抗議デモは、昨年末あたりから中東・北アフリカの各地で発生しているが、とりわけ先月からはスーダン、ヨルダン、エジプト、モロッコなどで治安部隊との衝突も相次いでいる。

このうち、エジプトではフランスで発生した「イエロー・ベスト」の波及を恐れ、昨年末に政府が黄色いベストの販売を禁止している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story