コラム

シリアIS占領地消滅でアルカイダは復活するか──3つの不吉な予兆

2019年03月25日(月)11時24分

ビン・ラディン亡き後、最高指導者の座に就いたアイマン・アル・ザワヒリは、アルカイダ立ち上げにも関わった大物ではあるが、いかんせんビン・ラディンと比べてカリスマ性に乏しく、そのことがISに「乗り換える」組織が続出する一因となった。そのため、「サラブレッド」ハンザ・ビン・ラディンの登場がアルカイダ復権を促す一つの条件になるとみてよい。

サウジアラビアの方針転換

第二に、サウジアラビア政府がアルカイダ支援を再開したとみられることだ。

サウジ政府とアルカイダの関係は、以前から語られてきた。9.11テロの実行犯グループのメンバーで、旅客機に乗り込む前に逮捕され、唯一生き残ったザカリアス・ムサウィは、裁判でサウジアラビア政府から支援があったと明言している。

もちろん、サウジ政府はこれを否定しているが、国内でのテロ活動をやめさせるため、そして場合によっては「共通の敵」に打撃を与えるため、サウジ政府がアルカイダと結びついてきたという認知は、もはや世界で公然の秘密として扱われている。

ただし、2015年に実権を握ったムハンマド皇太子は、サウジの近代化を目指すなか、それまでの外交・安全保障政策の見直しにも着手し、その一環としてイスラーム過激派との関係を縮小してきた。駐米大使を長く勤め、アルカイダとの窓口の一人と目されていたバンダル・ビン・スルタン王子が2015年に公職を追われたことは、その象徴だった。

ところが、ここにきてサウジアラビアはアルカイダとの関係を再び強化しているとみられる。

2月22日、アメリカ上院のエリザベス・ワラン議員はトランプ大統領宛ての公開書簡で「サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がイエメン内戦でアルカイダと協力し、アメリカ製の武器を提供しているのはなぜか」と疑問を投げかけた。

イエメンでは2015年以来、シーア派のイランが支援するフーシ派が首都を占拠し、スンニ派諸国の支援を受けた政府との間で戦闘が激化している。トランプ政権が関係を重視するサウジは、スンニ派諸国の有志連合を率いているが、イランやフーシ派との対抗上、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」を支援しているというのだ。

イエメン内戦での民間人を巻き込む空爆で国際的に批判を招くなか、サウジ政府が「汚れ仕事」をアルカイダに任せる選択をしても、不思議ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油

ビジネス

米FRBは年内1─2回の利下げ必要=SF連銀総裁

ワールド

トランプ氏、イランとの取引国に「2次関税」 大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story