コラム

中国に出荷されるミャンマーの花嫁──娘たちを売る少数民族の悲哀

2018年12月11日(火)14時20分

ジャーナリストのガイ・ホートン氏とオランダ開発協力省が国連に提出した報告書によると、2005年段階で少なくとも40万人が居住地を追われていた。この報告書は、軍によって無差別に殺傷された者が少なくないだけでなく、居住地を追われた少数民族が貧困に苦しむなか、国外に逃れたり、バラバラになったりすることで、民族として死滅しつつあると指摘し、「ゆるやかな大量虐殺」と表現している。

東部の少数民族のなかには麻薬を栽培・販売して軍資金を調達し、武装組織を結成してミャンマー政府と敵対するものもあり、この一帯では現在も散発的に戦闘が続いており、ロヒンギャ危機に注目が集まるのと対照的にほとんど関心が払われないことから、「忘れられた戦争」とも呼ばれる。

この背景のもと、少数民族の生活が困窮する状況は、人身取引ブローカーが暗躍しやすい環境になっているといえる。

スー・チー政権の隘路

ミャンマーでは2011年に選挙が復活し、2015年に政権が交代してアウン・サン・スー・チー氏を事実上の責任者とする政府が発足したことで社会・経済の安定が期待された。しかし、議会の議席の4分の1を軍人が占め、さらに5141万人の人口に対して約40万人の兵士を抱えるなど軍が大きな影響力をもちつづけるなか、スー・チー政権はこれを管理しきれていない。

これはロヒンギャ危機でもみられたことだが、東部の少数民族の危機的な状況についても、ほぼ同じことがいえる。

ミャンマー東部には、天然ガス産出国であるミャンマーから中国へのパイプラインが伸びており、さらにミャンマーの港と中国の雲南省を結ぶルートにあることから「一帯一路」構想にとっても重要な立地条件にある。これに加えて、カチン州は近年「世界最大のヒスイ生産地」として注目され、各国からの投資も相次いでいる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

郵船、発行済み株式の7.6%・1000億円を上限に

ビジネス

午前の日経平均は反落500円超安、円安進み為替介入

ワールド

カボベルデ、アフリカ初の平和サミット出席表明 ゼレ

ビジネス

過度な変動への対応、介入原資が制約とは認識してない
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story