コラム

ガソリン価格は160円代にまで上がるか-原油市場を揺るがす中東の三大ミサイル危機

2018年06月08日(金)12時00分

2017年12月、カタールは射程400キロの中国製短距離弾道ミサイルSY-400を導入。さらに同月、サウジと距離を置くトルコから、新たに約3,000人の部隊を受け入れることに合意するなど、防備を固めてきたのです。先述のロシア製ミサイルの輸入はこの延長線上のもので、S-400はシリアのアサド政権も配備しているものです。

カタールが針ねずみのように防御体制を固めることは、しかしサウジアラビアの態度をもさらに硬化させており、両国の緊張はこれまでになく高まっています。この状況は、やはり原油市場にとっての不安定要素となり得ます。

カタールの天然ガス埋蔵量は24兆3,000億立方メートルにおよび、その規模は世界全体の13パーセントを占めます(世界第3位)。また、資源エネルギー庁によると、日本の天然ガス輸入の15.8パーセントはカタール産です。この国を舞台に、トルコなど周辺国を巻き込んだ衝突が発生すれば、カタールからの天然ガス供給が減少し、ひいては国際的な原油市場にも影響が及ぶものとみられます。

イエメン内戦の飛び火

最後に、イエメン内戦です。

シリア内戦やパレスチナ問題と比べて、日本で取り上げられることが稀ですが、イエメン内戦は中東屈指の激戦の一つ。この国では2015年から、イエメン政府を支援するサウジアラビア主導の有志連合と、イエメン政府を首都から追い出したフーシ派を支援するイランとの代理戦争が展開されており、1,100万人以上が緊急支援を求めている状態です。

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その一方で、ここでの話に照らしていうと、イエメンでは石油がほとんど生産されず、同国はアラビア半島で最も貧しい国の一つです。貧しい国だからこそ、世界的に関心が集まりにくいともいえます。しかし、イエメン内戦は周辺の大産油国の石油生産にとっても無関係ではありません

2017年7月、フーシ派はサウジアラビアのヤンブーにある石油精製施設をイラン製の短距離弾道ミサイルBurkan-2Hで攻撃し、成功したと発表。サウジ政府はこれを否定しましたが、同年11月にフーシ派が今度はサウジの首都リヤドに向けてミサイルを発射。サウジ政府は米国製パトリオットミサイルでこれらを全て迎撃したと発表しましたが、世界屈指の産油国の首都近辺が攻撃される事態に、サウジの主要株価は一時1.7パーセント下落し、影響は周辺国にも及びました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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