コラム

ガソリン価格は160円代にまで上がるか-原油市場を揺るがす中東の三大ミサイル危機

2018年06月08日(金)12時00分

ところで、ブリティッシュ・ペトロリアムによると、イランの原油埋蔵量は1兆5,840億バレルで、世界第4位(2016)。中東ではサウジアラビアに次ぐ規模です。

トランプ政権はイランと取り引きする外国企業への制裁も検討しており、ただでさえイラン産原油の流通量は減る見込みです。この上、イランとイスラエルの緊張が高まり、ミサイルなどでお互いに相手国本土を攻撃する事態になれば、大きな被害をもたらすだけでなく、イラン産原油が市場に出回ることはさらに難しくなります。

日本もその影響は免れません。2015年段階で、日本の原油輸入の約5パーセントはイラン産です。大産油国イランの行方は、原油市場そのものを揺さぶるインパクトを秘めています。

サウジとカタール:兄弟げんかの果てに

第二の危機は、サウジアラビアとカタールの間の対立です。

6月2日、サウジアラビア政府はカタールに対する軍事活動があり得ると示唆。カタール政府がロシア製迎撃ミサイルS-400を配備したことへの警告でした。

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サウジアラビアとカタールの対立は、約1年前にさかのぼります。サウジアラビアは2017年6月、カタールと断交。アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトなどもサウジにならい、これまでに8カ国がカタールとの外交関係を断絶しました。これにともない、カタールとの貿易や人の移動も遮断されています。

カタールが周辺国から「日干し」にされた原因は、同国がハマスやムスリム同胞団などの勢力を支援し、イランとの関係を維持してきたことにありました。

サウジアラビアはこれらの組織を「テロ組織」に指定して締め付けを強化する一方、宗派の異なるイランとの対決姿勢を鮮明にしています。そのサウジにとって、「ペルシャ湾岸の君主制国家」で共通し、サウジの足場である湾岸協力機構(GCC)メンバーでもあるカタールは、いわば弟分の一人。その弟分が自らの方針に従わない状況は、兄貴分サウジにとって見過ごせないものだったのです。

中東の針ねずみ・カタール

ところが、カタールは周辺国からの封鎖を受けておとなしくなるどころか、むしろ態度を硬化させてきました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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