コラム

強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み方──際立つ欧州株と日本株の格差

2025年03月05日(水)11時10分
ドナルド・トランプ米大統領

ドナルド・トランプ米大統領の経済政策が世界の耳目を集めている Kevin Lamarque-REUTERS

<米経済がマイナス成長に転じていると示唆する統計が発表され、カナダ・メキシコへの関税発動にも驚かされた。しかし、米国経済が大きく減速するリスクは限定的だろう>

2月19日に最高値を更新していた米国株(S&P500)は、翌日から下落に転じており、また債券市場では4.5%付近で推移していた10年金利は3日には4.1%台まで大きく低下した。

株安、金利低下という米国の金融市場の変調はさらに続くだろうか。

金融市場変調の一因は、2024年まで絶好調だった米国経済に、2025年初から変調を示唆する兆候が散見されていることだ。2月分のサービス業の企業景況感指数が大きく低下、また1月分の個人消費が前月比-0.2%と減少した。

これらを受けて、アトランタ連銀による1-3月の「GDPナウ」(GDP成長率をリアルタイムに把握する指標)が年率-2.8%のマイナス成長に大きく下方修正されたことで、米国経済に対する警戒感がにわかに強まっている。

もっとも、GDPナウが示すように米経済がマイナス成長に転じている可能性はかなり低い、と筆者は判断している。

GDPナウの下方修正には、1月分の輸入金額が大きく増えて貿易赤字が増えたことが大きく効いている。同月に輸入が急増したのは関税引き上げ前に企業による駆け込み輸入が起きたためだが、金の輸入が特に増えた。

実際には、金の輸出入はGDPの算出にはカウントされない。一時的要因かつノイズによって貿易赤字が増えており、GDPナウは実態よりかなり低く算出されているとみられる。

もちろん、1月の個人消費が冴えなかったのは事実である。ただ、冬場の消費統計は天候などの要因でブレやすいので、消費がマイナスに転じているとは言えない。2024年12月まで年率4%で増えていた個人消費が巡航速度のペースに減速するのは、経済成長が長引くという意味ではむしろ望ましい、と筆者は考えている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザの病院攻撃、20人死亡 ロイター契

ワールド

インドの格付け「BBB-」維持、高債務と米関税リス

ビジネス

国際取引所連合、「トークン化株式」取り締まりを規制

ビジネス

メルセデス・ベンツ年金信託、日産自の株式3.46億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 10
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story