コラム

EVに次いで車載電池も敗戦?──ここぞという場面でブレーキを踏んでしまう日本企業

2022年07月20日(水)14時34分

EV販売台数でテスラに次ぎ世界2位の中国・BYD。ガソリン車の生産をやめてEVに注力している Aly Song-REUTERS

<日本はほんの10年前まで世界のEV産業のトップランナーだった。それがいよいよ普及期に入ろうとする今、日本の販売台数は韓国の半分に落ち込んでいる。車載電池でも敗色が濃厚だ。またも太陽電池の失敗を繰り返すのか>

2021年、世界は「EV元年」を迎えた。世界で年間に販売されたEV乗用車(純電動車BEVとプラグインハイブリッド車PHEVの合計。トラック、バスなど商用車は含まない)は657万台で、前年の2倍以上である(図1)。

中国でEV販売台数が前年より2.9倍にも伸び、世界の半分を占めたのが目立つものの、アメリカでも2.1倍、ヨーロッパで1.7倍、韓国で2.3倍と、先進国と中国の全域でEV販売が盛り上がっている。

この勢いでいけば、2030年代前半には先進国と中国の新車販売のほとんどをEVが占めるようになるかもしれない。すでにノルウェーでは2021年の時点で新車販売の86%がEVとなっている。つい数年前まで環境意識と所得の高い一部の人々だけが買っていたEVだが、先進国と中国では今や一般庶民もガソリンエンジン車の代わりにEVを買う時代になった。

停滞する日本のEV市場

marukawa11.jpeg


そんななか一人シラケているのが日本である。日本の2021年のEV販売台数は4.4万台。コロナ禍で自動車販売全般が落ち込んだ2020年に比べれば1.5倍の増加だが、2017年のピーク(5.4万台)には届かなかった。

そんな日本も、実はつい10年ほど前は世界のEVのトップランナーであった。世界初の量産EVとして日産がリーフを、三菱自動車がアイミーブを2009~10年に相次いで発売した。2010年には日本のEV販売台数は世界トップだったし、2011~13年はアメリカに次いで世界2位だった。

ところが2014年にEV販売台数で中国に追い抜かれた頃から、日本の自動車産業界と政府が急速にやる気を失っていく。2021年の日本のEV販売台数は韓国の半分であり、かつてのトップランナーの姿はもはや見る影もない。

メーカーのレベルでも、2021年のEV販売台数第1位はテスラ(米)、2位はBYD(中国)、3位は上汽GM五菱(米中合弁)、4位はフォルクスワーゲン(ドイツ)、と欧米・中国のメーカーばかりで、世界トップ20に入っている日本メーカーはトヨタ(第16位、11.6万台)だけである(Pontes, 2022)。

EVは充電して走るために車に電池を積まなければならない。ところが、電池というやつはかさばる上に高価だときている。そのためEVも高価で、普及が進まなかった。自動車産業は1モデルを年間10万台ぐらい大量生産することによって生産コストを下げ、競争に打ち勝つことができる。日本全体でEV販売が4万台しかなければ、どのメーカーもEV生産は採算が合わず、赤字になってしまう。日本の自動車産業界のEVに対する熱意が続かなかった理由は、こうしたコスト高→過小な市場規模というジレンマから抜け出せなかったことにある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、25年の鉱工業生産を5.9%増と予想=国営テ

ワールド

日銀幹部の出張・講演予定 田村委員が26年2月に横

ビジネス

日経平均は続伸、配当取りが支援 出遅れ物色も

ビジネス

午後3時のドルは156円前半へ上昇、上値追いは限定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story