コラム

米中GDP逆転を目前に下手に出てきた中国

2021年03月17日(水)11時30分
中国 全人代開幕 習近平国家首席

全人代の習近平国家首席を映す北京の巨大スクリーン(3月5日) Tingshu Wang-REUTERS

<3月11日に閉幕した全人代には3つの大きな変化があった。そこには、アメリカを経済規模で追い抜く際の摩擦を極力避けたい中国の配慮が込められている>

3月11日に中国の全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、翌12日にそこで採択された第14次5カ年計画が公表された。

日本のマスコミではあまり報道されていないが、そこには驚くべき変化が3つあった。

その第一は、経済成長率の目標が示されなかったことである。すなわち、「GDP成長率は合理的な範囲を保ち、各年の目標は状況をみて定める」として、具体的な数字がないのである。これは5カ年計画の本質にかかわる変化といってよい。

中国では1953年に始まる第1次5カ年計画(1953~57年)以来、これまで13回の5カ年計画を経てきたが、そのすべてが先進国にキャッチアップするための計画だった。第7次5カ年計画(1986~90年)以降はGDP成長率、それ以前は工業生産額などの成長率の目標が定められており、その目標の実現に向けて各産業や各部門の任務を定める、というのが5カ年計画を作る目的であった。2020年に最終年を迎えた第13次5カ年計画でも年率6.5%以上のGDP成長と、2010年のGDPを2020年には2倍にすることが目標となっていた。

2025年の目標を入れなかった理由

ところが今回は肝心の経済成長率の目標がない。これではいったい何のための5カ年計画なのか、その存在意義が問われよう。たしかに、ここ何回かの5カ年計画では高い成長率をシャカリキに追求するのではなく、エネルギー消費量や二酸化炭素排出の削減など成長の質にかかわる目標がより重要になってきていた。しかし、従来は、それもすべて国の経済規模を拡大し、国民の生活水準を引き上げるという総目標を実現するための付随的な目標にすぎなかった。

今回は経済成長という総目標を掲げない異例の5カ年計画であるが、それでも5カ年計画を作っている以上、終局的な目標はキャッチアップであると思う。そのことは、第14次5カ年計画のなかの2035年の長期目標として「一人あたりGDPにおいて先進国の中ぐらいの水準を目指す」と地味に書かれていることによって裏付けられる。中国の一人あたりGDPは2020年には1万500ドルだったが、筆者の予測では2035年には2万1000ドルぐらいになる。これは現在のギリシャやスロバキアぐらいの水準で、世界銀行の分類における高所得国の中ぐらいである。つまり、「先進国の中ぐらい」というのは遠い未来の壮大な目標ではなく、十分実現可能なものとして提示されている。

もし中国が依然としてキャッチアップを目指しているのであれば、なぜ5年後の2025年に向けた成長率の目標を示さなかったのだろうか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新作のティザー予告編に映るウッディの姿に「疑問の声」続出
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story