コラム

中国は38分で配布完了!? コロナ給付金支払いに見る彼我の差

2020年06月19日(金)14時50分

補助の配り方にも日本と中国とでは大きな違いがある。日本の給付金は国民に平等に配ることを重視しており、希望しない人以外は一律に1人10万円である。一方、杭州市の消費券の場合、第1弾で配布を受けた人は第2弾には申し込めないという制限はあったが、それ以外は一人の人が2回以上受け取ることに特に制限はなかった。消費券の目的が経済的に困っている人の所得を補うことよりも、消費を喚起することに置かれているため、同じ人が2回受け取ろうがどうしようが、とにかく消費してくれればいいのである。

また、スマホのアリペイを通じて申し込むことになっているので、日本であれば「スマホを持っていない人はどうするのか?」、「アリペイに加入していない人は?」と文句がでそうなところである。ただ、中国ではモバイル・インターネットの加入者数(スマホ保有者数とほぼ同じとみてよいだろう)が2018年末に12億7500万人と、国民がほぼ全員スマホを保有しており、アリペイなどのスマホ支払サービスにも10億人が登録している。そのため、スマホを持っていない人には不平等だ、という声は余り聞こえてこない。

杭州市で消費券を使った人々を分析したところ、消費額は低所得層、および41~50歳の年齢層が多いという結果になった。つまり、早い者勝ちの配布ではあるが、それでも補助を最も必要としている階層が受け取っているようである。

補助金を配る技術の格差

ただ、消費券を出す主体が地方政府なので、杭州市のような豊かな都市と、内陸部の貧しい地域との間で補助額に大きな格差が生じていることは否めない。後者のようなところではスマホでのネット接続に困難がある人もいるだろう。国全体での平等をどう実現するかという点では課題を残している。

補助を配る技術という点でみると、日本は中国にだいぶ差をつけられてしまった感がある。中国で消費券を受け取るには、スマホで消費券の申込ボタンを探し出し、決まった日時に押すだけで済む。申込時間が始まるとみんな一斉に応募するため、4、5度押さないといけないそうだが、それでも配る消費券の数に割と余裕があるので、申込時間が始まるのを狙っているような人はだいたいゲットできるようである。

一方、日本では特別定額給付金をオンラインで申し込める仕組を作ったものの、いざ申込が始まってみたら、地方自治体での事務作業がかえって煩雑だとわかり、50以上の自治体がオンライン申請の受付を停止してしまった。

私自身はマイナンバーカードを持っていないので、区役所から書類が届いたら即座に郵送で申し込み、割とすぐに給付金が振り込まれたが、それでも国会で補正予算が成立してすでに40日以上が経過していた。スマホをポチッと押したらすぐに利用可能になり、一週間以内に使わなくてはならない中国の消費券に比べて、ずいぶんとおおらかな「スピード感」である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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