コラム

中国は38分で配布完了!? コロナ給付金支払いに見る彼我の差

2020年06月19日(金)14時50分

中国ではキャッシュレス化がすでに進んでいて、その基盤を使って消費券がスピーディーに配布できたのに対し、日本はデジタル化の入り口でつまずいてしまった。

なぜ日本のオンライン申請はこれほど手間取っているのだろうか。地方自治体によれば、申請の半数以上に何らかの不備があるのだそうだが、これほどミスをする人の割合が高いということは悪いのは国民の側ではなく、システムの設計に問題があったと考えるべきである。

本来、マイナンバーは政府の事務のなかで個人を識別するためのもので、行政のデジタル化の基礎となるべきものである。今回の給付金でも、マイナンバーによって給付対象者を特定すれば効率的に給付が行えたはずである。給付金が欲しい人はマイナンバーを自治体に伝えて申し込み、本人確認書類を添えることで、申請しているのが本人であることを証明し、本人名義の銀行口座を伝えれば、作業はスムーズに進んだであろう。

使えないマイナンバー

ところが今回のオンライン申請では、マイナンバーカードを使うのに、なぜかマイナンバーを給付対象者の識別には使わないという奇妙な設計になっている。給付金をエサに普及率16%と低迷するマイナンバーカードを普及させようという総務省の下心がうかがえるシステムであるが、そのために地方自治体に多大な業務負担をもたらし、効率化に逆行する結果となった。

オンライン申請では、世帯主が一家を代表して世帯の給付対象者全員の氏名をネット上の枠の中に書き込むことで給付を申し込むようになっており、マイナンバーは給付対象者を特定する手段としては使われていないのである。そのため、オンライン申請でも、郵送で来た申込書と同様に、自治体職員が入力された世帯員の氏名と住民台帳とを一つ一つ目で照合しなければならなかった。ここで漢字の変換ミスがあったり、異字体が使われていたりすると、申請は不備ということになる。

ではマイナンバーカードはどこで使うのかというと、それは世帯主がたしかに本人であることを示す電子ハンコとして使われた。マイナンバーカードで電子的にハンコを押すには、パソコンに接続したカードリーダーにカードを差し込むか、またはスマホでカードを読み取ったうえで、署名用暗証番号というものを入力する必要がある。

この署名用暗証番号がくせものであった。署名用暗証番号はマイナンバーカードの申し込み時に一度書くだけなので、その後使う機会がなくて忘れていた人が続出した。暗証番号を記録しておいた人でも、いざそれを入力してみると、「パスワードが間違っています」と拒否されるケースが相次いだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ一時初の4万ドル台、利下げ観測が

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、4月輸入物価が約2年ぶりの

ビジネス

中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性=米N

ワールド

G7、ロシア凍結資産活用巡るEUの方針支持へ 財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story