コラム

シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらない理由

2018年09月06日(木)20時00分

2018年春の時点ではAirbnbに登録されていた民泊の件数は日本全体で6万2000件だったそうだが、民泊新法の施行から1か月経った2018年7月15日時点で受理された民泊の件数は全国でわずか4000件弱だった。「民泊新法」は事実上の民泊禁止法となってしまったのである。

シェアリングエコノミーは、もともと先進国の浪費的なライフスタイルに対する反省から提唱されたものなので、それが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらないのはある意味で不思議である。先進国のシェアリングエコノミーは、社会のなかに過剰に存在する資産(たとえばクルマ)をもっと有効に活用しようとする動きである。一方、中国はまだ中所得国なので社会の中に資産が有り余っているというほどでもない。むしろ自転車シェアリングのように、社会の中に新たに資産を投入して、それをシェアしようというパターンの方が多い。

ただ、中国は人口密度が高いので、先進国よりも早い段階でモノを増やしていくことの限界を意識せざるをえなくなっている。中国の人口当たりの自動車保有台数はまだ途上国レベルなのに、中国の大都市の多くが自動車の保有制限に乗り出しているのがその一例である。中国のシェアリングエコノミーは、人口密度が高い社会における持続可能なライフスタイルを模索する試みである。

抵抗勢力が強過ぎる

一方、日本でシェアリングエコノミーが盛り上がらないのは民泊やライドシェアの例からわかるように抵抗勢力と規制が強いことが第一の要因だと言えそうである。

加えて日本では、欧米のような人権や自然権の思想が根付いていないことにも一因があるのではないかと私は思っている。

例えばこんなことがあった。民泊新法が施行される以前のこと、NHKで、最近住宅街でも民泊が行われるようになり、近所の住民が不安に感じている、というニュースが流れた。そのニュースのなかで、ある弁護士の発言として「住宅街で外国人がスーツケースを引いている姿を見たら速やかに通報してほしい」というコメントが流れた。私はこの発言をした当人に対してはもちろん、このような発言を電波に載せたNHKの人権感覚に対して大きな失望を感じた。その外国人が近所に定住している人だったら、あるいは、ご近所の人のところにホームステイしている外国人だったら、事実誤認の通報によって人権侵害が起きる可能性があると思わないのだろうか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スペースXが来年のIPO計画、250億ドル超調達目

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る

ワールド

印防衛企業がロシアに接近、西側との共同開発に支障 

ビジネス

国内企業物価、11月は前年比2.7%上昇 農林水産
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story