コラム

シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらない理由

2018年09月06日(木)20時00分

もっとも、最近の東京では空車のタクシーが見つかりやすいので、ライドシェアがあったらいいなと思う場面が少ないことも事実である。しかし、ライドシェアが役立ちそうな場面は日本にも存在する。例えば、大雨や地震で電車が停まり、タクシー乗り場に長蛇の列ができるような時である。

ライドシェアのシステムでは需給に応じて価格が変動するようになっている。地震でJRが運転を停止すれば、ライドシェアに対する需要がぐんと増えるので、ふだんはタクシーで1000円ぐらいの距離でも料金が1万円に跳ね上がるかもしれない。するとその費用を負担してでも移動したい人から順に移動することになる。

「それでは公平じゃない」と思う人も多いだろうが、移動したいというニーズが強い人から移動できるという点では合理的なシステムである。また、価格が上がれば、ライドシェアに登録しているドライバーたちが商機を生かそうと動き出すだろうから、少し待てば価格が下がってくるかもしれない。

もう一つ、日本で残念な展開になったのが民泊である。世界192か国での宿泊を仲介しているというAirbnbや、中国では途家や小猪など、民泊仲介はシェアリングエコノミーを代表する分野として成長している。日本でも2014年にAirbnbが進出して以来、訪日外国人を中心に民泊の利用が静かに広まっていた。

訪日外国人、来て欲しいのか欲しくないのか

しかし、私を含め、一般の日本人はそういう動きにあまり気づいていなかったと思う。日本国民の民泊に対する認知度を一気に高めたのが2017年6月の住宅宿泊事業法、いわゆる「民泊新法」の制定だった。

この法律は、法案を作った国土交通省の説明によれば、「健全な民泊サービスの普及を図るもの」である。しかし、この法律ができたことでむしろ民泊は許可を得なければできないという認識が一般に広まり、「違法民泊」を告発する報道が多くみられるようになった。

民泊新法は、民泊が一年間に客を受け入れられる日数の上限を180日としているが、「生活環境の悪化」が懸念される場合には、地方自治体の判断で受け入れ日数をもっと制限することを認めている。日本旅館協会はこの規定を利用して民泊への制限を強めるよう地方自治体に陳情を強めた。

その甲斐もあって、2018年6月に民泊新法が施行される時点では、各地での民泊に対する制限が非常に強くなっていた。例えば京都市では民泊が客を泊めていい時期は1月15日から3月15日までの間のみ、仙台市の住宅地では土曜のみ可、軽井沢町では全面禁止となった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story