コラム

ドイツ発の新産業革命「インダストリー4.0」の波に乗ろうとする中国企業と、動きが鈍い日本企業

2016年05月06日(金)15時24分

 広東省佛山市の工場内搬送用ロボット・メーカー、嘉騰(JATEN)は、搬送用ロボットが障害物を自分でよけながら荷物を運んで自動的に動き回る実演展示をしていました。また、中国の民営企業の走りである正泰集団(CHINT)も大きな展示をしていました。正泰集団は16年前に私が温州市の本社を訪れた際には弱電分野の専門メーカーでスイッチやブレーカーを作っていましたが、説明してくれた同社社員によると、2004年に上海に高圧送変電機器の工場を作って進出、さらに2009年には太陽電池の生産にも乗り出しました。その後EUが中国製太陽電池に対してアンチダンピング課税を行ったため、正泰集団はドイツの太陽電池メーカーConergyを買収してヨーロッパ市場へ進出。ただ、すでに太陽光発電の導入ブームが去った後だったため太陽電池事業は余りふるわず、ヨーロッパでの事業の中心は依然として弱電機器だそうです。

未完成でも気にしない

 展示会の趣旨とはややずれているけれど出展しちゃった中国企業も散見されました。人気を集めていたのが家庭用ロボット「エミー」を作っている杭州艾米機器人(Amy Robotics)です。

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中国製家庭用ロボット「エミー」と筆者 Tomoo Marukawa

 エミーは人間の言語を理解し、家庭内の電気機器のスイッチを入れたり、ご飯を炊く時間を知らせてくれたり、子供の相手をしてくれたりするそうです。展示の説明書きには中国語、英語、ドイツ語を解するとありましたが、説明員によれば「ドイツ語はまだいまいち」だそうです。また、「おいで」と呼ばれて客の方へ近づいていくのはいいが、「止まれ」と言っても止まらなくなったり、やや未完成の感がありました。

 実は、出展した中国企業の圧倒的多数は上で紹介したような最終製品のメーカーではなく、むしろ鋳物、金属部品、プラスチック部品を生産する中小企業でした。「工業自動化」「デジタル工場」「エネルギー」などに分類された会場にはそれぞれ中国コーナーが設けられていましたが、それぞれに数十社の中国企業が小さなブースを並べていました。要するにインダストリー4.0ブームで発生する機械部品に対する需要をすくい上げようという狙いだと思います。トルコやインドの企業も同様の狙いで出展している企業が数多くみられました。

 中国の地方政府もインダストリー4.0の潮流に乗り遅れまいとして熱心に取り組んでいます。2015年には佛山市の提唱により中独産業都市連盟が結成され、佛山、江門、肇慶、ハノーファー、アーヘン、ヴッパータールなどが参加して双方の産業の交流を図っています。南昌市などは中独インダストリー4.0工業園という工業団地を作ってしまいました。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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