コラム

改正道路交通法は高齢者の免許更新をどう変える? 「サポカー限定免許」より必要なこと

2022年06月15日(水)20時25分
高齢者講習

認知機能だけでなく、加齢による身体機能の低下にも焦点を当てた内容に(写真はイメージです) GCShutter-iStock

<合格しないと免許更新できない「運転技能検査」、自主返納に代わる選択肢として注目される「サポカー限定免許」──道路交通法の変更点と高齢者の移動問題について考える>

5月13日、改正道路交通法が施行され、高齢者の免許更新の制度が変わることが実車試験の映像とともに報道された。この改正で何が変わったのか。調べてみても断片的な情報が多く分かりにくい。「運転技能検査」「サポカー限定免許」とは何か。道路交通法の変更点と、これからの高齢者の移動の問題について考えたい。

「運転技能検査」は一定の違反歴がある人のみ対象

変更後の高齢者の免許更新を理解するために、次の3つの講習・検査について概観しておきたい。

1. 高齢者講習

「座学」と「実車」を組み合わせた講習。座学といっても聴講する時間は半分で、残り半分は視力・聴力の検査などの適性検査に充てられる。講義では、道路交通の現状と交通事故の実態、運転者の心構え、安全運転の知識について学ぶ。

実車は運転の指導が目的で、慣らし走行とコース走行を行い、受講者を個別に指導するものであって採点はしない。運転技能の衰えの有無を自覚してもらうことを重視している。

2. 認知機能検査

次の2項目をテストすることで記憶力や判断力を測定する。

①提示された絵を記憶し、時間をおいて思い出すことで短期記憶に問題がないかを確かめる「手がかり再生」
②自分の置かれている状況を認識できているかを確かめる「時間の見当識」

この検査は何度も受け直すことができる。

3. 運転技能検査

過去3年間で一定の違反歴があった人のみが対象となる。高齢者講習の実車と同じ課題だが、運転技能を採点する点が異なる。合格点を取れなければ免許更新ができない。しかし、こちらも認知機能検査と同じく、再受検が可能で、何回か受検する中でスキルが向上して合格するケースもあることは知っておきたい。検査項目は次の通り。

・指示された速度で安全に走行できるか(指示速度による走行)
・停止線の手前で確実に停止できているか(一時停止)
・右左折時に安全に曲がることができるか(右折・左折)
・赤色の信号機に従って停止線の手前で確実に停止できるか(信号通過)
・段差に乗り上げた後にアクセルペダルからブレーキペダルに踏み替えて安全に停止できるか(段差乗り上げ) など

これまでは①認知機能検査②高齢者講習の順に受けると決まっていたが、今回の変更で順番が問われなくなった。講習や検査の予約が取りづらいことが問題となっており、それを緩和する狙いがある。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story