コラム

コロナ禍と乗務員不足で日本に迫る「交通崩壊」の足音

2021年01月15日(金)19時05分

もともと少なかった地方のタクシー事業者がさらに減る懸念も(写真は本文とは関係ありません) rockdrigo68-iStock

<コロナ禍による需要の減少によって鉄道やバス、タクシーなど交通事業者の資金繰りが厳しくなれば、特に大きなしわ寄せを受けるのは「生活の足」を必要とする交通弱者だ>

新型コロナウイルス第3波を受けて1月8日、緊急事態宣言が発出された。GoToトラベルの停止延長、飲食店の営業時間を午後8時までに短縮、出勤者数7割減などを要請し、人の流れを止めるこの政策は、すなわち交通機関の利用者減にも直結し、鉄道やバス、タクシーなど移動を担う各事業者にも大きな打撃を与えている。

収支悪化によってそれらの移動手段の縮小や廃止が行われれば、公共交通を使って買い物や病院に行くしかない高齢者の生活はこれまで以上に制限される。特に免許を返納する高齢者は年々増えており、問題は今後いっそう顕著になる見込みだ。

日本の公共交通の強みであり弱みでもあるのは、欧州の国々と異なり主に利益を追求する民間企業に支えられているという点で、故にコロナ禍の影響を大きく受けている。

資金繰りが厳しくなる時期は?

「路線バスは、感染拡大が一時期落ち着いた2020年9月から11月ですら対前年度で平日20〜30%減、土日祝はさらに10%減で推移。通学目的は、オンライン授業の継続で50%減が続いている。高速乗合バスは、利用状況に応じて減便と復便を繰り返している。観光バスは、雇用調整助成金や副業を承認しながら雇用を確保している状況だ。第3波の影響は不可避で、コロナ前には戻らないことを前提に、需要に応じた減便を行って費用削減に努める」

コロナ禍による交通崩壊を食い止めようと開催された2020年12月24日の公共交通マーケティング研究会で、兵庫県内の路線バス、都市間移動を支える高速乗合バス、観光バスなどを運行する神姫バスの佐藤匡氏は事業のひっ迫状況をこのように話す。

九州の公共交通を所管する九州運輸局が行った1回目の緊急事態宣言期間の交通事業者への影響についての調査で、「利用者の推移やこの状態が続いた場合、資金繰りが不安になる時期はいつか」と聞いている。

路線バスの4月から5月の運送収入が50〜70%減少したという事業者が約7割。この状態が続けば、資金繰りが不安になる時期は約3割の事業者が半年以内、約3割が3ヶ月以内と回答している。また減少幅が最も大きかった旅客船は9割の事業者が70%以上の運送収入の減少率を記録したが、約6割の事業者は「特段不安なし」と回答。

タクシーで運送収入が50%以上減少した事業者は8割、資金繰りが厳しくなる時期が3ヶ月以内と回答した事業者が約3割で、半年以内と回答した事業者と合わせると8割以上に達する。タクシー会社の多くは駅で鉄道やバスから降りてくる出張者や観光客、夜に飲みに出掛けてクルマで帰れない人を待っている場合が多い。そのため出張者や観光客の減少、夜の飲酒を伴う飲食店の利用減、さらには高齢者の通院控えなどが大きく影響していると思われる。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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