コラム

尖閣沖で日本の漁船を狙い始めた中国海警局

2020年05月13日(水)12時15分

尖閣沖では中国海警船と日本漁船を守る海保の巡視船が睨み合って緊張感が走った(写真は1月11日、南シナ海でインドネシア海軍と睨み合う中国海警船) Antara Foto/M Risyal Hidayat/via REUTERS

<中国側は日本の領海内の漁船を「違法」操業とみなしたとみられ、この種の脅しは続く可能性が高い。海警船の性能も乗員の実力も向上しており、日本は対応策を迫られている>

5月8日、尖閣諸島の領海に侵入した中国海警局の船2隻が、近くで操業していた日本の漁船を追尾した。警備に当たっていた海上保安庁の巡視船が、海警船に領海侵入に対する警告を行い漁船の安全を確保する中で、現場は一時緊張が高まったという。海警船はその後も領海内で漁船の近くに留まり、10日になって領海を出た。日本政府はただちに領海侵入が主権の侵害であるとして中国政府に抗議したが、中国政府は日本の漁船が中国の領海内で違法操業をしていたため中止を求めたと、海警船の行動を正当化する一方、海上保安庁による妨害行為に再発防止を求めた。

中国は、なぜこのような行動をとったのであろうか。日本が新型コロナウイルスの終息に向けて努力を重ねている中で、中国がその隙を突き、尖閣への攻勢を強めてきたというのが一般的な見方であろう。あるいは、新型コロナの影響で中国経済が失速する中、習近平体制が国内の不満をそらすために、日本に対して強硬な姿勢を示したという分析もある。しかし、客観的な情報を積み重ねれば、今回の事案は海警局による外国漁船の取締り強化という方針に基づいて発生したと考えられる。

今回の追尾の特異な点

そもそも、中国の政府公船が尖閣沖の領海で日本の漁船を追尾したのは今回が初めてではない。海上保安庁は今回の事案が5例目であるとしているが(*)、公開情報によれば少なくとも今回が6例目だとみられる。1)2013年2月18日、2)13年2月28日、3)13年4月23日、4)13年5月(日付不明)、5)19年5月24日、そして6)20年5月8日に、追尾が行われている。

 (*)過去の中国公船による日本漁船への接近事例について、第十一管区海上保安本部が5月10日
付けでマスコミに対して発出した広報文によれば、2013年の海警局発足以降では以下の4件となっている。
 ・2013年8月、日本漁船1隻へ中国公船4隻が接近
 ・2013年10月、日本漁船4隻へ中国公船4隻が接近
 ・2014年8月、日本漁船3隻へ中国漁船3隻が接近
 ・2019年5月、日本漁船1隻へ中国公船2隻が接近

1)3)4)5)については、漁船にメディア関係者や政治活動家が乗船していたため、中国側が過剰に反応した可能性が高い。3)に関しては事前に尖閣に向かうことを発表していたため、中国側も8隻の公船を派遣してきたが、1)4)5)については中国側が現場海域で目視によって乗船者を認識したか、何らかの手段で漁船の出航前に情報を得ていたと考えられる。

一方、2)と今回の6)については、漁船が石垣島の八重山漁協所属ではなかったこと以外に特異な点は見られない。海警船が八重山漁協以外の漁船と何らかの方法で把握して追尾した可能性もあるが、尖閣周辺には常に様々な漁協に所属する漁船がいるため、あまり説得力はない。ただ、6)については、漁船が尖閣西方沖という、海警船に見つかりやすい海域にいたことに海保関係者は注目しているようだ。

プロフィール

小谷哲男

明海大学外国語学部教授、日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障政策、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障。1973年生まれ。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、岡崎研究所研究員、日本国際問題研究所研究員等を経て2018年4月より現職。主な共著として、『アジアの安全保障(2017-2018)(朝雲新聞社、2017年)、『現代日本の地政学』(中公新書、2017年)、『国際関係・安全保障用語辞典第2版』(ミネルヴァ書房、2017年)。平成15年度防衛庁長官賞受賞。

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、リスク選好度低下で安全買い

ビジネス

ECB、レバレッジ比率の緩和措置を9カ月延長 22

ワールド

「今すぐワクチン受けて」、バイデン氏呼び掛け 目標

ビジネス

FRB、最低23年末までゼロ金利維持を=ミネアポリ

MAGAZINE

特集:ルポ 武漢研究所のウソ

2021年6月22日号(6/15発売)

新型コロナウイルスの発生源と疑われる中国の研究機関は危険な感染実験を繰り返していた

人気ランキング

  • 1

    やっぱり危ない化粧品──米研究で半分以上に発がん性物質

  • 2

    徴用工訴訟、ソウル地裁の却下判決 韓国法曹会は正反対の判決に動揺広がる

  • 3

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷彿とさせる透明性の欠如

  • 4

    「量子もつれ顕微鏡」が「見ることができない」構造…

  • 5

    コロナ研究所流出説を裏付けるコウモリ動画

  • 6

    K-POPアイドルも逃れられぬ兵役の義務、ファンを絶望…

  • 7

    【ファクトチェック】肛門PCR検査は中国で義務付けら…

  • 8

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」…

  • 9

    国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪…

  • 10

    ファイザーのワクチンで激しい副反応を経験した看護…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷彿とさせる透明性の欠如

  • 3

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執するこれだけの訳

  • 4

    最愛の人の「生前の姿」をGoogleストリートビューで…

  • 5

    オーストラリア、一面クモの巣で覆われる

  • 6

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい…

  • 7

    やっぱり危ない化粧品──米研究で半分以上に発がん性…

  • 8

    病院がICUを放棄? 無人の部屋に死体のみ、訪ねた親…

  • 9

    ノーベル賞を受賞した科学者の私が、人生で後悔して…

  • 10

    徴用工訴訟、ソウル地裁の却下判決 韓国法曹会は正…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    脳が騙される! 白黒の映像が、目の錯覚でフルカラーに見える不思議な体験

  • 3

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 4

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウン…

  • 5

    閲覧ご注意:ネズミの波がオーストラリアの農地や町…

  • 6

    東京オリンピックの前向きな中止を考えよ

  • 7

    武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得…

  • 8

    【ファクトチェック】肛門PCR検査は中国で義務付けら…

  • 9

    ファイザーのワクチンで激しい副反応を経験した看護…

  • 10

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中