コラム

ホワイトハウスでクラスター疑惑──トランプ大統領がコロナに感染したらどうなる?

2020年05月15日(金)11時55分

5月14日、共和党議員を引き連れて医療関連会社を視察に訪れたトランプ。前週にマスクなしでマスク工場を訪れ批判されたばかりだが Carlos Barria−REUTERS

<最近までマスクもせず社会的距離も無視してきたトランプ政権で、ついにトランプとペンスの側近の感染が確認された。もし大統領か正副大統領が感染することになれば、権力の空白も生じかねない>

トランプ大統領とペンス副大統領の側近が新型コロナウイルスに感染し、ホワイトハウスでクラスターが発生する懸念が高まっている。ホワイトハウスの一般職員は毎週、そして高官は毎日PCR検査を受けており、マスクの着用もようやく義務づけられるようになったが、ホワイトハウスで使われている検査キットは3分の1の確率で陽性検体を陰性と判定するなど精度の問題が指摘されており、感染拡大の懸念は払拭できていない。

とくにマスク嫌いのトランプは、5月14日にペンシルバニア州の医療品配送センターを視察した時にもマスクなしで表れ、ペンスはそのトランプと記者会見に同席するなど行動を共にすることが多いため、どちらか、あるいは両方が感染する可能性は否定できない。

トランプとペンスのどちらか、あるいは両方が感染して職務遂行が不可能になった場合、政権の運営はどうなるのだろうか。とりわけ、大統領は米軍の最高司令官として、核攻撃の権限を持っているため、安全保障の観点から見ても重要な問題である。大統領が急速に重篤化して自発的に副大統領に権限を委譲できない場合と、大統領と副大統領が同時に重篤化して職務を遂行できなくなった場合に、混乱が予想され、権力の空白が生まれる可能性がある。

<参考記事>マスク拒否のホワイトハウスで、コロナ対策を率いるファウチ博士らが自主隔離

必ずしも明白でない継承手続き

大統領の権力の継承は、合衆国憲法修正第25条に定められている。その第1節では、大統領の罷免、死亡、または辞任の場合は、副大統領が大統領になると定めされている。このため、大統領が感染症で死亡した場合、副大統領が権力を継承する。第2節では、副大統領職が欠員になった場合、大統領が副大統領を指名し、上下両院の過半数の承認を得れば、指名された人物が副大統領職に就任する。副大統領が感染症で死亡した場合は、この手続きによって後任が選ばれる。つまり、大統領または副大統領が感染症で死亡した場合は、継承手続きは明白である。

では、大統領が感染症にかかって重篤化し、一時的に職務の遂行が困難になった場合はどうか。この場合は、修正第25条第3節に基づき、大統領が職務の遂行が困難であることを上院の仮議長と下院議長に書面で送付すれば、副大統領が大統領代行となる。大統領が回復し、職務の遂行が可能となれば、その旨を両議長に伝え、ただちに復職できる。これまで、ジョージ・W・ブッシュ大統領が第3節に基づき、自らの持病の手術の間、チェイニー副大統領に一時的に権限を委譲している。

では、感染症にかかった大統領が急速に重篤化し、第3節が定める自発的な権限委譲の手続きを取れない場合はどうか。この場合も、第4節に基づいて、副大統領が大統領の職務を代行することが可能である。そのためには、副大統領が、全閣僚の過半数とともに大統領が職務を遂行できないと判断し、その旨を上院の仮議長と下院議長に送付する必要がある。大統領は、回復後に書面によって職務の遂行が可能であると宣言すれば、職務に復帰することが可能である。

<参考記事>ロックダウン解除で試されるアメリカの「ウィズコロナ」計画

プロフィール

小谷哲男

明海大学外国語学部教授、日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障政策、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障。1973年生まれ。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、岡崎研究所研究員、日本国際問題研究所研究員等を経て2018年4月より現職。主な共著として、『アジアの安全保障(2017-2018)(朝雲新聞社、2017年)、『現代日本の地政学』(中公新書、2017年)、『国際関係・安全保障用語辞典第2版』(ミネルヴァ書房、2017年)。平成15年度防衛庁長官賞受賞。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物急落、サウジが増産示唆 米WTI21年3月

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米GDPは3年ぶりのマイナ

ビジネス

FRB年内利下げ幅予想は1%、5月据え置きは変わら

ワールド

EU、米国の対ロシア政策転換に備え「プランB」を準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story