コラム

ホワイトハウスでクラスター疑惑──トランプ大統領がコロナに感染したらどうなる?

2020年05月15日(金)11時55分

しかし、第4節は大統領の自発的ではない離職につながるため、これまで発動されたことはない。同節の規定では、回復した大統領が職務の遂行が可能であると宣言しても、4日以内に副大統領と閣僚の過半数が依然として大統領が職務を遂行できないと判断し、21日以内に議会の3分の2がその判断に同意すれば、副大統領が大統領職の代行を継続することになる。この手続きは、下院の過半数および上院の3分の2の賛成で成立する弾劾よりもハードルが高いとはいえ、いわば合法的クーデターである。1981年にレーガン大統領が銃撃された際、多くの閣僚が第4節の発動をブッシュ副大統領に求めたにもかかわらず、ブッシュはこれを受け入れなかった。

しかも、トランプ政権については、大統領に常規を逸した言動や精神的に不安定な兆候が見られるとして、第4節に基づいて罷免すべきだという議論がメディアで取り沙汰されたこともあり、守りが固くなっている。このため、ペンスとその他の閣僚にとって、その発動は通常よりもハードルが高いと考えられる。つまり、万が一、トランプが第3節の手続きを取れずに職務遂行ができなくなった場合、権力の空白が生じる可能性が否定できない。

裁判になれば権力の空白が

それでは、大統領と副大統領が同時に重篤化し、修正第25条に基づいた権限の委譲が行われない場合はどうなるだろうか。この場合は、大統領権限継承法に基づき、下院議長が大統領代行になることが定められている。しかし、大統領と副大統領が重篤のため職務を遂行できないと判断する手続きは明白ではない。このため、下院議長が大統領職の代行を宣言しても、大統領府および副大統領府が職務の遂行が可能であると反論する可能性がある。

特に、トランプの弾劾手続きを始めた張本人であるペロシ下院議長が大統領代行となることに対するトランプ政権の抵抗は、相当強いものとなるだろう。このような状況になれば、おそらく裁判所が判断を下すことになると考えられるが、その間権力の空白が生じる可能性がある。実際に、トランプ大統領はテレビのインタビューでペロシが代行になれば「大惨事」であると発言しているし、マケナニー報道官も下院議長が代行になるプロセスについては検討していないと述べている。

合衆国憲法は、もともと大統領権限の継承については曖昧であった。しかし、暗殺や傷病などによって、大統領が職務を遂行できない事態は幾度もあった。特に、常に核戦争に備えなければならない冷戦期には、権限の継承を明確化する必要性が高まった。そして、1963年にケネディ大統領が暗殺されたことをうけて、修正第25条が制定されたのである。これによって権限継承の手続きは明確化されたが、以上でみたように、権力の空白が生じる可能性は残っている。特に、アメリカで政治の分断が進む中、その可能性は高まっている。

プロフィール

小谷哲男

明海大学外国語学部教授、日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障政策、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障。1973年生まれ。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、岡崎研究所研究員、日本国際問題研究所研究員等を経て2018年4月より現職。主な共著として、『アジアの安全保障(2017-2018)(朝雲新聞社、2017年)、『現代日本の地政学』(中公新書、2017年)、『国際関係・安全保障用語辞典第2版』(ミネルヴァ書房、2017年)。平成15年度防衛庁長官賞受賞。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国産大豆追加購入の可能性低下も 関税違憲判

ビジネス

トランプ関税違憲判決、米エネ企業のコスト軽減 取引

ワールド

米USTR、新たな301条調査開始へ 主要国の大半

ワールド

トランプ氏、10%の代替関税に署名 最高裁の違憲判
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルーの大スキャンダルを招いた「女王の寵愛」とは
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 9
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story