コラム

尖閣沖で日本の漁船を狙い始めた中国海警局

2020年05月13日(水)12時15分

今回海警船が日本の漁船を追尾した理由を理解するには、より広い海域での海警船の行動に目を向ける必要がある。中国政府は、毎年5月の初めから8月の中旬まで、漁業資源と海洋環境の保全を理由に、東シナ海、南シナ海、そして黄海の広い海域で休漁期間を設定してきた。海警局はこの間、違法操業の取締りを行ってきたが、あくまで対象は中国漁船であった。しかし、今年は「亮剣2020」という取締りキャンペーンを実施し、外国漁船も「弾圧」の対象としている。今のところ、実際に外国漁船の取締りが行われたという情報はないが、尖閣沖で海警船が日本の漁船を追尾したのは、休漁期間中の外国漁船の取締りを強化する中で行われた可能性が高い。

つまり、休漁期間が続く間、中国は尖閣沖だけでなく、より広い東アジアの海域で外国漁船の取締り強化を続けていくと考えられる。海警船が尖閣沖で日本漁船を追尾することも繰り返される可能性がある。今回、日本の漁船を追尾した海警船が3日間にわたって領海内に留まったことは異例であり、中国政府が日本の漁船が領海内で違法操業をしたと主張したことも初めてである。今回の事案を一過性のものとみなすべきではない。

荒天でも居座る実力

もちろん、休漁期間が終了した後も、海警船が日本の漁船の取締りの強化を継続すると考えるべきである。尖閣沖での海警船の行動は、新型コロナ発生の前から大きく変化していた。海警船は、尖閣周辺の接続水域に毎月15日から21日ほど入域し、3回程度領海侵入を行うのが通常で、荒天時には避難しなくてはならなかった。しかし、2019年5月以降、領海侵入の頻度は変わらないものの、天候にかかわらず接続水域にほぼ毎日常駐するようになった。これは、海警船の大型化が進み、乗組員の操船技術も向上したため、また2018年7月の組織改編によって、遠洋での作戦を熟知した現役の海軍将校が海警局を指揮するようになったためと考えられる。つまり、海警船は日本の漁船をいつでも"狙える"のである。

海警船が今後も日本の漁船を狙うとすれば、日本政府はこれにどのように対処するべきであろうか。尖閣沖での海警船の活動に対処するため、海上保安庁は巡視船や航空機を増強し、尖閣専従体制を整えている。これによって、領海侵入への対応や、上陸の阻止、また中国漁船の取締りに関しては能力が強化されたといえるだろう。しかし、日本の漁船を海警船から保護することは、あまり想定されていなかった任務であり、実際に領海内で海警船が日本の漁船に乗り込むような事態が発生した場合に、現行の体制で十分な対応が可能か検討する必要がある。

プロフィール

小谷哲男

明海大学外国語学部教授、日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障政策、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障。1973年生まれ。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、岡崎研究所研究員、日本国際問題研究所研究員等を経て2018年4月より現職。主な共著として、『アジアの安全保障(2017-2018)(朝雲新聞社、2017年)、『現代日本の地政学』(中公新書、2017年)、『国際関係・安全保障用語辞典第2版』(ミネルヴァ書房、2017年)。平成15年度防衛庁長官賞受賞。

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