コラム

防犯対策としての「不審者探し」の限界 犯罪から子供を守るために注視すべきは「人」ではなく...

2025年04月08日(火)12時05分

要するに、昼間「見えにくい場所」に街灯を設置しても、夜だけ「見えやすい場所」にはならないのだ。にもかかわらず、街灯によって「見えやすい場所」になったと勘違いすると、それまでは暗かったので警戒していた人も油断するようになる。

それでは、かえって犯罪が起こりやすくなってしまう。シンシナティ大学のジョン・エック教授も、「照明は、ある場所では効果があるが、他の場所では効果がなく、さらに他の状況では逆効果を招く」と述べている。

こうした点を踏まえたマップづくりなら、子供の景色解読力が高まり、その子が犯罪に巻き込まれる確率は低下する。以下では、2024年に文部科学省委託「学校安全総合支援事業」のモデル校になった新潟県燕市立粟生津小学校で実施したアンケート結果をご覧いただきたい。

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新潟県教育庁作成(一部抜粋)

この比較表は、地域安全マップの授業の前と後に、児童を対象に防犯知識を問うたものである。ここで注意していただきたいのは、このアンケートは、「意識調査」ではなく「知識調査」であるという点だ。

この種の調査では、「防犯意識は高まりましたか」と問うことが多いが、これでは意味がない。意識が高まっても、間違った知識のままでは、状況は悪化するだけだ。重要なのは、「意識」ではなく「知識」である。大事なのは、「精神論」ではなく「科学」なのである。

このアンケートを見ると、子供たちの景色解読力(危険予測能力)が大幅に上昇したことが分かる。というのは、正答率の著しい向上は、正しい知識を大量に吸収したことを意味するからだ。こうした教育効果に鑑みれば、地域安全マップという地図は、子供たちのその後の人生にとっても、大きな道標になると言えるだろう。

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プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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